もう「機能水」に騙されない。違法販売で歯科医師4人逮捕

中田 智之

逮捕された歯科医の天野聖志容疑者(天野歯科医院HPより)

歯科医師4名が無承認うがい薬の販売の疑いで逮捕されました。通称「機能水」と呼ばれる効果不明の「水」の販売は以前から歯医者同士でも問題視しており、ついに逮捕に至ったかという声が多く聞かれました。

(参考)“スーパードクター”歯科医を逮捕…新型コロナに有効とうたい無承認の「うがい液」販売 ― FNNプライムオンライン(2020年11月20日)

(参考)次亜塩素酸水がらみで歯科医師らが逮捕されたが… ― Spee(歯科医師)(2020年11月23日)

事件自体の論点整理に関しては、上記歯科医師のブログにて詳説されています。

今回逮捕につながった効果不明の「水」の販売は一般的なうがい薬の約10倍という高額で、10年以上前から続いております。その成分はオゾン水・電解水・イオン水など様々で、次亜塩素酸水はその代表格と言えます。医学の分野で効果不明というのは、現場で使用する価値がない、と同義です。

「これまでとは違う」といううたい文句で次から次へと登場する機能水ですが、今回逮捕に至ったペリオトリートという商品は、以前歯周病学会から注意喚起がされたパーフェクトペリオという商品の後継商品です。いずれも批判を受けながらも、医学的効果に関するエビデンスを立証する努力を怠ってきた、という本質は全く変わっていません。

(参考)「パーフェクトペリオ」について日本歯周病学会の見解

上記ポジションペーパー内にも示されている通り、医学的に重要なのはヒトに応用したときの効果と安全性であって、微生物や細胞に作用させたり、動物実験で得られた効果というのは参考にすべき情報とは言えません

実際に既知の医薬品は人体に対して使用したときの作用が十分検討され、厚労省が効果ありと認めたものであり、アナフィラキシーの発生頻度までも解明されています。

(参考)含嗽薬 ― 厚労省

(参考)新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)

上記資料によれば口腔内でウィルス対策できる薬剤はポピドンヨードのみで、手指に対するウィルス対策は15秒の流水洗浄か、アルコールの刷り込みです。(ポピドンヨードの新型コロナウィルスへの効果は本稿では論じません)これら最も確実でコスパもよく、毎日行っても健康被害のない安全な方法です。

次亜塩素酸水に関しては「モノ」に対する消毒の有効性が指摘されていますが、資料に記載がある通り非常に複雑で面倒な手順が必要であることがわかると思います。なぜ高いお金と煩雑な手順を費やして、効果が明確でない方法を採用するのでしょうか。

hisa nishiya/iStock

聞きなれない・目新しい薬剤を使用して、もし本当に消毒すべき時に消毒できていなかったら、身近な人たちに与えるリスクはかえって大きくなります。薬効と価格も関連性はありません。このことを冷静に考えてほしいと思います。

そもそも市販の電解水や機能水の販売価格はアルコール製剤と同程度なので、それよりも10倍の価格というのは専門家の推薦などといったプライオリティに依存しています。

新型コロナウィルスへの不安に便乗し、専門家の立場を乱用した商売は悪質性が高いとみなされ、今回の逮捕につながったものと考えられます。これは公衆衛生と専門家の信頼性という二つの観点で多くの問題があります。

本件を他人事とせず、今後も業界・学会・行政のみならず、有志の専門家からしっかり注意喚起していく必要性を感じます。