菅内閣は退陣する安倍前首相が意外に元気だったのが幸いして、準備万端でスタートした。年末総選挙の見通しが一挙に崩れ、年始はおろか来年五輪終了後か、衆院の任期満了に伴う選挙の見通しが強くなった。解散・総選挙は菅首相の判断一つである。
コロナの乱世は世界共通問題であって、さらなる国際的混乱が起こる可能性は少ないだろう。それより懸念するのは米中関係である。これまでトランプ氏が習近平氏のアゴに2、3発入れたところだが、パンチの効き目が分からない。
中国ではあちこちで企業破産が起こっていると言われ、最近は中国国有自動車大手の「華晨汽車集団」が破産したという。一方では習氏は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に加盟し、さらに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加をぶち上げた。広く貿易の世界に乗り出す意欲を示したものだろう。
ただ、米次期大統領バイデン氏は「TPP復帰」を公約している。TPPには政府補助金を付ける国は加盟資格がない。加入には米抜きでも11ヵ国全員の承認が必要だ。中国のTPPへの対応も米復帰まで待った方が良い問題だ。
菅新内閣の次の宿題はオリンピックだが、国の総力を挙げて取り組む必要がある。コロナの落ち着き具合、オリンピックの終了を待つと、来年8月前の段階で、解散・総選挙はできない。コロナから復活し、経済の新しい状況を見極めたところで、「実績を問いたい」のが菅首相の希望ではないか。
中国電子商取引最大手アリババ傘下のアントと呼ばれる金融子会社を香港と上海で上場する予定だったが、アリババの創業者・馬雲(ジャック・マー)氏が金融当局の事情聴取を受け、株式市場を潤すと言われた3兆6千億円は突如消えた。中国が世界征服への布石として、世界中にばら撒いた一帯一路の工事も順調に進んでいるという話は聞かない。
これまで中国の侵略は時代を待つような余裕を見せていたが、香港問題に見えるのは切羽詰まったやり方だ。同じ傾向で台湾問題を捉えると、「米政界がゴタゴタしている今」がチャンスということもあり得る。日本は新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備を止めた代わりに敵基地攻撃能力の開発を急いでいる。
一方で日本の野党の集団は何を考えているか。民主党が政権を取って以来、日本共産党と他の野党は徐々に近づき、今では野党で共産党を受け付けないのは維新や新国民民主党など、ほんの一部。日本の野党に救いがないのは、共産党と同列で反日運動と目されるような運動や外交安保政策に傾いていることだ。
イタリア共産党は冷戦終結前「これからは保守派退治だ」と宣言して共産党を解党し、「左翼民主党」と転換し、冷戦後に政権を取った。日本共産党のように民主主義国家とは相容れない特異な政党と組んでいる限り、日本の野党が政権を取れるはずが無い。
(令和2年11月25日付静岡新聞『論壇』より転載)
屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。