慶応と東京歯科大が合併!慶応の意図はどこにあるのか

中田 智之

慶応大学と東京歯科大学(heiwa4126Hasec/Wikipedia)

おととい、私立名門である慶応義塾大学と、老舗歯科大学である東京歯科大学が合併するという驚きのニュースが流れました。

(参考)慶応大と東京歯科大、合併へ 23年めどに歯学部開設 ― 時事通信(2020年11月26日)

(参考)東京歯科大学の歯学部の慶應義塾大学への統合および法人の合併について協議開始 ― 慶応義塾(2020年11月26日)

慶応義塾大学が歯学部と合流したがっている、というのは私が在学中だった2010年頃からウワサ話としてはありました。しかしそれが現実になるというのは歯科業界の中でも晴天の霹靂として受け止められています。

私が最も気になるのは、私立歯科大学が受験生の投資に対するリターンという観点で見合わなくなってきているタイミングで、なぜ慶応が合流するという決断に至ったのかというところです。

ご存知の方も多いでしょうが、私立歯科大は多額の学費がかかります。医学部受験データベースによると、東京歯科大学の6年通算での学費は3000万円で、これは合併によるスケールメリットで大幅に減額が期待できるものではありません。

年収ガイドをみても分かる通り、歯科医師は、昔と違ってガッポガッポ儲かっているわけではありません。

雑誌に掲載されたり講演会の講師を任され、客観的には成功している50代の先輩歯科医師も、「歯医者っていうのはとりあえず食いっぱぐれないけど、贅沢な生活するなって国に言われているようなもんだ」と表現していました。

itakayuki/iStock

 

私立歯科大を卒業し、開業資金も払う、となると1個人の生涯を通じた投資とリターンがつりあってくるのか疑問です。もちろん、親が金持ちで学費を回収する必要がないとか、継承する土地建物自前の歯科医院がある、というなら条件は変わってくるかもしれません。

これは保育士など、学校卒業を資格試験受験の条件に含まれる業種で共通の問題です

これらの条件の中で私立歯科大学に通える子息というのは限られていますし、その上でその子息の次の代を私立歯科大学に入れられる貯蓄ができるかという観点では非常に厳しく、歯科医師の再生産性というのは今後業界が直面する課題だと感じています。

私立歯科大学というのがこのような環境であるというのは、慶応義塾大学はもちろん知っているはずだと思いますが、その上で合併を選択したのはどのような意図があるのでしょうか。

もちろん国内私立トップのブランドを持つ慶応義塾と、これもまた国内歯科大学での老舗、かつ国家試験合格率もトップランナーでありつづける東京歯科大学という組み合わせは、他者の追随を許さないブランド力を持つことになります。慶応義塾大学医学部のように私立歯学部では不動のポジションを獲得するだろうという見方もありそうです。

しかし東京歯科大学は私立歯科大トップの現状でも偏差値55。慶応義塾大学は学部にもよりますが中央値で偏差値66であり、このままだと慶応義塾大学の中で歯学部は最も低い偏差値となります。

慶応義塾大学が医科総合大学として、ラストピースを手に入れたのか。それとも歯科教育の問題に直面していくのか。今後も目が離せないと思います。

一方で、歯科教育問題に関して慶応義塾大学の優秀な頭脳が主体的に仲間として行動してくれるのであれば、それは心強いものであると同時に、歯科業界の学閥勢力図を書き換えていくことに繋がるのだろうなぁと感じております。