脳科学者の茂木健一郎氏が28日のツイートで、『中学受験塾、進む低年齢化 「席埋まる前に」早めに入塾』という朝日新聞の記事を引用し、「脳が柔軟な大切な時期をこのような狭い学習に費やすのは国家的な損失」と断罪した。
東京学芸大学附属高から東京大学理学部に入学し、同法学部まで卒業(Wikipediaより)した受験界の圧倒的エリートである茂木氏に偏差値や受験そのものを否定されるいわれもないのだが、幼少期から詰め込み型の学習塾に通うことが健全な心身の発達に好ましくないだろうことは、脳科学の素人でも分かる。しかし、中学受験塾入塾の低年齢化に警鐘を鳴らすとしたら、はっきり言ってこの朝日新聞の記事は甘い。
首都圏の一部のSAPIX校舎で見られる低年齢化は、記事にあるどころの騒ぎではない。都心部のとある校舎では、現幼稚園年長向けに11月3日実施された新1年生の入塾テストの申し込みを、募集開始直後の10月早々に締め切った。申込みが殺到したからだ。入塾テストを受けられないということはつまり、まだ小学校に入学もしていない幼稚園児の段階で、SAPIXには入塾できないことが確定してしまったということだ。
数年前までは、「小2の2月から始まる新3年の入塾ではすでに定員が埋まっているから遅い。新2年ならギリギリ入塾できる」と言われていたのが、一昨年あたりから「いや、新2年でも遅い。入学前の新1年から始めないと席が埋まる」という話が広まり、幼稚園生活最後の運動会を休んでまで、SAPIXの入塾テストを受けた、という親子を筆者は実際に何組も知っている。
それでも昨年は、年が明けて小学校入学直前の2月の入塾テストでSAPIXの新1年クラス入りチケットをゲットした家庭もあったようだが、今年はすでに、SAPIXのサイトには、「渋谷校・白金高輪校新1~6年生、宮前平校の新1~5年生は、募集を停止しています」などの非情な言葉が並ぶ。新設される白金台校の募集は、開始5分で埋まったという噂も出回っている。
「保育園落ちた、日本死ね」が国会でも取り上げられた「待機児童」問題だが、今や、東京やその近郊の小学生ママたちの間では、「待機SAPIX」問題が深刻化しているのだ。待機SAPIXの定義に、SAPIXそのものへの入塾を待つ子どもたちの他、最寄りの校舎は満席で通えず、電車で何十分も離れた校舎に通いながらいつ出るか分からない最寄り校舎の空席を待つ子どもたちを含めるとしたら、筆者の周囲にいったい何組の待機親子がいることか。
SAPIXが牽引(?)してきた中学受験塾入塾の低年齢化は他の有名進学塾にも及び、四谷大塚などの一部の校舎でも、すでに新1年向けの入塾体験講座が満席になっている。これから募集を始めるエルカミノなどの比較的新興の塾も、開始早々に席が埋まる校舎も出てくるだろう。
異常なまでの過熱ぶりで、茂木先生のおっしゃるとおり、「国家的な損失」にも繋がりかねない事態であるが、渦中にいる保護者たちは、ただただ、「席の確保」に必死なのだ。新4年生から入塾などと悠長に構えていると、いざその時に満席で受け入れ可能な塾が通える範囲にない、ということになってしまいかねないのだから。
近年、中学受験は、早くから金をかければかけるほど強くなる「課金ゲーム」に例えられているが、塾に入りたくても入れないようでは、もはや「無理ゲー」と言っても過言ではないだろう。
中学受験塾の投資効果については、こちらをご参照ください。