オーストリアで軍用犬が「コロナ捜査犬」に転身へ

少し遅くなったが、2020年を閉じる前に書いておかなければならない話題がある。中国武漢発の新型コロナウイルス(covid-19)の猛威に毅然と戦いを挑む医師の話は報じられているが、人間をウイルスの感染危機から守ろうと立ち上がった「犬」の話だ。犬の権利を擁護する自称、犬のロビイストの当方としては、この話をぜひともこのコラム欄に書きとどめておきたいのだ。

▲コロナ感染有無を迅速に判断するファンタジー(ウィ―ンのメトロ新聞「ホイテ」12月15日から)

人間には不可視のウイルスを感知し、ウイルスの感染有無を素早く知ることから、犬を教育してウイルス感染防止に役立てるという話は既に報じられているが、オーストリアでは新型コロナウイルスの有無を素早く見分けることができる軍用犬が誕生し、近い将来、空港や多くの人々がいる場所に派遣される予定だというのだ。

直径100nm(ナノメートル)から最大200nmのウイルスを感知できる犬の臭覚がいかに凄いかを考える時、人間の他に犬を創造された神に感謝せざるを得ない。創造主に感謝を忘れて、犬のスーパー・パワーだけを利用するわけにはいかないだろう。

新型コロナウイルス感知犬の第1号となったのはシェパードの軍用犬、5歳の雌犬ファンタジー(Fantasy)だ。軍でコロナウイルスを感知するよう厳しいトレーニングを受けてきた。ファンタジーが多くの軍用犬の中から選ばれたのだ。ウイルスを感知する能力があっても、ウイルス感知犬の職場に魅力を感じない犬もいる。犬も就業活動をする青年と同じだ。その気質や能力によって犯人を追う警察犬、麻薬を見つけ出す麻薬捜査犬、地震で崩壊した家屋の生き埋めとなった人々を探す捜査犬などから、最も適した職場を選択する。ファンタジーの場合、その学習能力とやる気が訓練士の目に留まったという。

ファンタジーがコロナウイルスを感知する状況を紹介する動画がメディアに紹介されたが、ウイルスの匂いが付いた缶とそうではない缶が並べられている。ファンタジーは1缶、1缶を素早く嗅ぎ分け、ウイルスが付着した缶を見つける。間違うことがない。また、Covid-19のつけられたマスクときれいなマスクを嗅ぎ分けて 250の検査を10分でやり遂げたという。ファンタジーは今年6月からニーダーエステライヒ州のカイザーシュタインブルフ軍用犬訓練センターで訓練を受けてきた。年末か年明けには訓練を終えて、空港や競技場などで新型コロナの感染者を見つけ出す任務に就くという。

少し、ウイルス感染有無に対する情報をまとめる。新型コロナに感染しているか否かの検査方法としては、PCR検査が最もよく知られている。当方も3月、1度受けた。新型コロナウイルスの遺伝子配列のRNAが存在しているかをチェックするため、病原体の多い鼻、喉、唾液などを検査するやり方だ。それについで、抗原検査で新型コロナウイルスに対する抗体を用いて抗原を見つける。そして最後は抗体検査。ウイルスに感染した人の体内で作られた抗体を検出する方法だ。

それぞれ一長一短がある。検査結果が出るまで時間がかかったり、迅速だがその正確度に問題があったり、検査に特殊な機材や専門医が必要なため多くの人を素早く検査するには不向きと、といった具合だ。

そこでわれらのファンタジーが活躍できるチャンスがあるわけだ。特別な機材も必要ないうえ、感染有無を素早く判断できるという大きなメリットを持っている。問題といえば、犬も人間と同じで日によって体調や気分の上がり下がりがあることだ。ただし、訓練を通じてそれらの欠点はカバーできる範囲だ。

と、ここまで書いてちょっと気になることを思い出した。ファンタジーが新型コロナウイルスに感染する危険はないのだろうかだ。危険度が高いようだと、動物愛護協会から犬の生命を無視しているといった苦情が飛び出すだろう。

英メディアで猫が新型コロナウイルスに感染したというニュースが報じられていたことを思い出す。ファンタジーが感染防止用のサージカル・マスクを着用して任務をこなす姿は想像できない。感染する危険性が少ないことを願うだけだ。

このコラム欄でも書いたが、警察犬は短命といわれる(「なぜ、警察犬は短命か」2012年5月22日参考)。やはりストレスがあるからだ。オーストリア内務省関係者によると、「警察犬は普通の家で飼われている犬と比べて短命だ。厳しい環境下で長期間、その任務に当たる警察犬は人間と同じように、疲労とストレスが重なるからだ」という。

これはウイルス感染探知第1号の名誉を獲得した軍用犬ファンタジーにも当てはまる内容だ。学習能力があってやる気と好奇心に溢れるファンタジーとはいえ、相手はウイルスだ。油断はできないから、一瞬一瞬緊張の連続だろう。それだけにストレスが積み重なる。ファンタジーが咳をしたり、発熱したり、疲労感を覚えているようだと、赤信号だ。

厳しい戦場にファンタジーを送り、人間の感染防止のために働かせることに人間としては少々引け目を感じる。それだけに、その労苦に応えることができる我々になっていかなければならない。ファンタジーの活躍と安全を祈りたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。