「コロナ・ワクチン接種」と倫理問題

中国武漢発の新型コロナウイルスが欧州にまで感染を広めて既に10カ月余り経過したが、ここにきてCovid-19に対するワクチンが開発され、欧州医薬品庁(EMA)の承認勧告を受け、欧州連合(EU)欧州委員会は21日、米製薬大手ファイザーと独バイオ医薬品企業ビオンテックが共同開発したワクチンの条件付き販売承認を決定した。フォンデアライエン欧州委員長は、「今月27日から接種が開始される」と述べた。

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オーストリアのアンショーバー保健相は、「ワクチンは大きなチャンスだ」と指摘し、クルツ首相は、「ワクチン接種が進めば来年夏には再び新型コロナ感染前の正常な日常生活に戻れるだろう」と期待を表明している。

その一方、感染力が強い新型コロナウイルスの変異種が英国で見つかり、英仏海峡が一時的に閉鎖され、物流の停滞が広がっている。同時に、認可され、接種が始まったワクチンの有効性に懸念を表明する声が既に聞かれる。

世界保健機関(WHO)は21日、「英国以外で5カ国、新型コロナの変異種が発見されている」と確認する一方、「変異種は従来より感染力は強いが、感染者を重症化させ、致死率を上げたりする証拠は現時点で見つかっていない」という。

世界的に著名なドイツのウイルス学者、クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は、「ドイツでも既に変異種が見つかっている。もう暫く監視しなければならないが、既に認可されたワクチンの有効性に支障が出てくるとは現時点では考えていない」と語っている。

ところで、認可されたワクチンには、人工妊娠中絶された胎児の細胞株がワクチン開発段階で使用されていることが明らかになると、バチカン教理省は21日、「胎児の細胞株がワクチン開発の段階で使用されていたとしても、問題のない、完全なワクチンがない段階では受容可能だ」と指摘、開発研究過程で胎児の細胞株が使用されているワクチンに道徳的な問題はないとの立場を明らかにした。ちなみに、開発段階で使用された胎児の細胞株は1960年代に接取されて保管されていたものという。

バチカン教理省は、「ワクチンの効果や安全性について評価できない。なぜならば、それは生物医学者が責任もって答えるべき問題だからだ。ただしワクチンを接種するか否かの選択権が国民にない場合は、道徳的には受容できない」と述べ、ワクチンの接種義務化には異議を唱えた。

フランシスコ教皇が今月17日に認め、バチカン教理省が21日に公表した覚書によれば、「一般の国民、特に高齢者や疾患者を守るワクチンである限り、支持する。同時に、ワクチン接種は道徳的な義務ではなく、あくまで自主的な判断に基づくものでなければならない」と説明。その上で「医薬品製造メーカーと各国保健関係者は倫理的に認可され、患者に接取できる受容可能なワクチンの製造に努力すべきだ」と強調。また、「貧しい国に対してもワクチンを提供すべきだ」と付け加えている。

コロナ・ワクチン製造で中絶された胎児の細胞株が製造段階で使用されている問題について、バチカンが立場を表明した背景にはカトリック教会内外で中絶された胎児の細胞株の利用で強い批判の声があるからだ。バチカン教理省は過去、「生物倫理」に関するテーマで見解をまとめた文書などを発表している。

バチカンニュース独語版は21日、「コロナ・ワクチンは道徳的に受容可能だ」と大きく報道し、「コロナ・ワクチンを接種することは中絶を認めることを意味しない」と、ワクチンの接種は中絶を正当化するものではないと重ねて強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。