医療崩壊は医師の怠慢なのか?取り残される現場

中田 智之

写真AC

医師会会長が「医療緊急事態宣言」をしたことに関して、医療に対する大きな批判が巻き起こっています。

これまでは医療問題に関しては厚労省が矢面に立ち、医師会にスポットライトが当たることはありませんでした。コロナ問題は半世紀以上誰も疑うことのなかった、国民皆保険制度に基づく手厚い医療制度に関する問題を浮き上がらせたのではないでしょうか。

これは既に様々なメディアから指摘されている通り、医療体制の柔軟性不足によるものですが、医師がサボタージュしているというという世論が形成されてしまうと、せっかくの医療改革の機運があらぬ方向に向かってしまうのではないかと危惧しています。

(参考)異例の合同会見 「医療緊急事態宣言」ー FNN (2020年12月21日)

(参考)日本医師会が「医療緊急事態」で騒ぐ本当の理由 医療が逼迫する原因は感染拡大ではない ー JBpress(2020年12月25日)

しかし、柔軟な医療体制の構築を実際にやろうとすると簡単ではありません。

その背景は2つあります。

1つは感染病棟は熟練と確実性を高度に求められる、精鋭部隊であるためです。そこに人数だけ揃えて看護師や医師が来ても困る、というのが正直なところだと思います。

皆さんの職場で想像してみても分かる通り、大勢の新人が一度に押し寄せても、かえって業務の停滞と質の低下につながる恐れがあります。スキルが重要な職務であればなおさらでしょう。スキルのないアルバイトを即戦力化するには、ある程度ノウハウと、それを前提とした体制構築が必要です。

今後のことも考えると、緊急時は拡大し、落ち着いたら縮小できる医療体制を構築しなくてはなりませんが、残念ながらそのような訓練はこれまでされてきませんでした。

例えば今後パンデミックが起こった場合、病院等施設が離職中の看護職員を雇用しない理由として、「潜在看護職員の知識・技術の程度がわからない」を53.9%、「感染拡大下では教育・研修の余裕がない」を46.9%があげています。どんな経験を積んできたかわからない医師や看護師が来ても、任せて良い業務は極めて限定的だ、と現場は感じています。

(参考)看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査 ー 日本看護協会(2020年12月22日)

RyanKing999/iStock

もう1つは国民からの医師への期待です。

医療は完璧に遂行されて当たり前のもの。感染の漏洩などあってはならない不祥事で、そのような医療施設は廃業して当然、関わった医師はその汚名を永久に被るもの。このように思われては、「ボランティアに手伝ってもらおう」という余裕はありません。

世の中がセンシティブになっている新型コロナに関してはなおさらです。医師もそれはよくわかっていて、「そのような医療を国民は望んでいるのか」と問い返してきます。これは医療改革を停滞させる常套句ではありますが、重要な論点でもあります。

質の高い医療を当たり前と期待する結果、精鋭部隊の孤軍奮闘が続き、医療緊急事態宣言に繋がっている、ということは国民の側も認識しなくてはなりません。

以上2点踏まえた上でも、医療体制の柔軟化は今後に備えて考え、制度化していく必要があるでしょう。感染者数に応じて大幅な増員と削減を繰り返すのであれば、有償・無償問わずボランティアをどれだけ活かせるかの仕組みづくりを現場が考えなければなりません。

応援にきたボランティアに何を任せるか、コアスタッフはどこに配置すればよいか。何人までのボランティア受け入れなら、医療クオリティを維持できるか。ボランティアが引き起こした医療事故の責任はだれがとるのか。

医療サイドの努力だけでなく、法整備や、国民の理解も必要ではないかと考えております。

一方で現場医師からたびたび聞こえてくるのは、「医師会の発信は医師の総意ではない」という反論です。実際に医師会の加入率は6割程度で、医療最前線を担当している若手医師の加入率はさらに低くなっています。

医療の高度複雑化・大規模化に伴い2000年代には勤務医の医師会加入率も多くなってきていますが、医師会の発信は未だに開業医・病院経営寄りのものになっているようです。確かに勤務医の肌感覚として「医師会のお偉いさんと自分は関係がない」「むしろ顧みられていない」と感じることもあるでしょう

(参考)医師会未加入6割弱、45歳未満の会員 ー 医療維新(2014年10月31日)

(参考)「勤務医にとって医師会は疑念の対象」 ー 医療維新(2012年7月3日)

だからといって医師会と勤務医は無関係だと言えるでしょうか。医師会は厚労省と医療制度や診療報酬についてほとんど独占的な交渉権を持っています。そこで作られた枠組みの中で勤務医をはじめとする全ての医師は活動しています。

医師会の、ひいては医療行政の決定権を握る病院経営者や開業医たちが、感染医療の現場を押し付けたまま抜本的な解決策を打ち出さず、いざ第三波がくるや医療緊急事態宣言と騒ぎたてる。これを勤務医たちは冷めた目で見ています。

そうであれば現場の勤務医や看護師たちから、例えばオンライン署名を集めるなど、医師会に対する突き上げがあってもいいのではないか、そう考えています。