大学受験シーズン到来!今人気上昇中の「農学部」って何をするところ?

今井 明子

子どもの頃、私は散歩中に「葉っぱ、葉っぱ」とやたらと植物に興味を持ち、周囲の大人から「将来は農学部に行って農家のお嫁さんになるのかね」と言われていたのだそうです。

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その言葉の影響は意外と大きく、結果として私は京都大学農学部に進学しました(農家の嫁にはなりませんでしたが……)。

農学部といえば農業というイメージが強いかもしれませんが、農学部とひとくちにいってもかなり広い分野を網羅しています。

もちろん、畑や水田を耕して作物を作る「農業」に関する学問をする場所だというのは大前提です。たとえば、稲や小麦、野菜、花、果樹、土壌、植物の病気などについての研究ですね。

そして、このような「農業」以外の第一次産業、すなわち林業・水産業・畜産業と関連する研究も農学部の範疇に入ります。畜産には獣医さんが欠かせないので、大学によっては農学部の中に獣医学科が存在することもあります。

私も3回生の夏には、大学の水産研究所に実習に行き、小さな船に乗って沖の海洋の水温を測ったり、天橋立の海をさらって何の種類の魚の赤ちゃんが何匹いるのかを調査したりしたものです。

(船酔いしそうになったり、長時間顕微鏡を見続けて気分が悪くなったりしたのが印象に残っています)

そして農学部には第一次産業そのものを取り巻く分野や、応用させた分野の研究室もあります。

これはたとえば醸造や生命科学、農業経済、地球環境などが挙げられますね。近年農学部が人気だといわれていますが、このあたりの分野が注目されていることが大きいのだと思います。

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そういえば以前、農林水産省に食料自給率について取材に行ったことがありました。

自分も農学部出身だと伝えると、取材に対応してくださった方は「私は農業経済が専門でした」とお話しされていて、「そうか、確かに農業経済を学ぶとこういう進路になるよね」と妙に納得した覚えがあります。

農業には気象の知識も欠かせません。農学部の専門科目のなかには「気象学入門」もあり、「ほほう、低気圧は上昇気流で、高気圧は下降気流なんだな」と興味深く受講しました。そういった経験が気象予報士の資格を取ってみようというきっかけになったことは確かです。

では、私はどんな分野を専攻したのかというと、農学分野の雑草学という学問でした。手先が不器用すぎるし、顕微鏡をのぞき続けると光で気分が悪くなってくるので、実験室にこもって実験するよりは外で体を動かしたいと思い、この分野に進んだというわけです。

たまに「卒論では何やったの?」と聞かれると、私は「雑草の観察日記です」と答えます。すると、皆「えっ、小学生の夏休みの宿題かよ!? 京大なんだからもっと難しそうなことをやってそうなのに……」という顔をするので面白いです。しかし、実際に雑草をさまざまな条件下で何百株も育て、丈はどのくらい伸びたのか、いつ開花したのかなどを記録して集計していたので、そう答えるしかないんですよね。研究というとなんだか高尚な感じがしますが、日々行っていることはこういう地道な作業の積み重ねなのです。

気温のデータをとるために百葉箱を手作りしましたし、真夏の京都でビニールハウスに入って48℃の気温の中で汗だくになりながら作業したこともあります。夏になると月1回は研究室総出で草刈りをして腰痛でヘロヘロになりましたし、秋にはヒエを刈って(雑草学なので育てているのは稲ではなくてヒエ!)、刈り取った藁を焼いて焼きいもパーティーをしました。どれも懐かしい思い出です。

私は研究や開発の職種は向いていないと思い、大学院には進まず文系就職をしたつもりでいました。しかし、結果的に農学部時代の知識や経験は今の仕事にも役に立っています。

そして、科学記事を書くためにさまざまな研究者に取材する今となっては、農学部のほかの分野についてもとても興味がわいています。機会があればまた学んでみたいものです。