日本の病床数は人口1000人あたり13.7床で世界一だ。なぜ欧米よりはるかに少ないコロナ患者で医療が崩壊するのか――という問いは逆である。分母と分子を逆にすると病床あたり人口が世界一少ないので、病院経営の効率が悪いのだ。病院の7割は赤字である。
こういう病院の経営問題が、今回の危機の背景にある。日本経済新聞によると、5月中旬には全国で3万床以上あったコロナ病床が今は約2万7000床に減ったというが、これは単なる行政の見込み違いではない。
重症患者に対応する急性期病床のある病院のうち、公立病院は69%、公的病院(日赤など)は79%がコロナ患者を受け入れているが、民間病院は18%しか受け入れていない。
これを「コロナ患者を拒否する病院はけしからん」などと非難するのはお門違いだ。コロナ患者を受け入れると他の患者が寄りつかなくなり、医師や看護師の負担が大きい。院内感染が起こるとマスコミに騒がれ、経営が立ち行かなくなる。それを拒否するのは民間企業としては当たり前である。
大病院と地域病院の二重構造
本書はコロナ第一波に対する病院の対応について、医療コンサルタントが全国700以上の病院のデータで分析したものだ。2~6月のデータでは、重症患者の24%が一般病棟で治療を受ける一方、軽症患者の半分が感染症病棟やICUベッドに収容されるなど、ミスマッチが目立ったという。
この原因は、病院経営の効率が悪いからだ。医療の質は大規模な病院ほど高いが、日本の病院の7割が200床未満の中小企業だ。急性期病床が多いが、重症患者の多くは大病院に入院するので地域病院の空床率は高い。
それを埋めるために外来ですませてもいい患者を入院させ、長期入院で埋めているので、急性期病床の平均在院日数も16.2日と世界一である。他方で回復期病床や介護は不足しているので、病院が介護施設になっている。医療スタッフの質も低く、感染症専門医が1人しかいない病院も多い。
コロナは、このように体力の弱い地域病院を直撃した。収益源だった手術が延期され、コロナ患者は無症状でも長期入院が義務づけられる。いつまでも退院できない高齢者が病床を占拠すると、病院経営が行き詰まってしまう。
中小病院は地域医療の中核というプライドが高いので、経営不振になっても買収・合併を拒否する。軽症患者を地域病院が受け入れ、重症患者は大病院に搬送するという役割分担もできない。コロナの医療資源の配分は保健所がやっているが、何も権限がないので、お願いしかできない。
要するに経営効率の悪い中小企業が補助金で延命され、大企業との格差が大きいという日本経済によくある二重構造が、医療のミスマッチの原因なのだ。感染症法や特措法を改正するなら、緊急時には行政が保険医療機関の人員配置や転院に介入する権限を明記し、損失を補償する必要がある。
コロナ重症患者を大病院に集約し、一般病院と役割分担することも必要だ。長期的には中小病院を集約し、医療の質を高めないと、感染が起こるたびに大混乱になる。これは政治的には困難だが、今のような緊急時に政治が決断しないと、いつまでもできないだろう。
この問題もアゴラサロンで議論したい。