社外取締役が増えると企業の不正リスクは高まる?

1月22日のNIKKEI Financialのコラム「金融腹話術」では、「危険な『社外取締役バブル』、競争力低下のリスク」と題して、2022年4月に始まる「プライム市場」に上場する企業は、独立社外取締役を3分の1以上入れることが求められるようになることに「競争力の低下をもたらすリスク」が生じることが指摘されています。

(写真AC:編集部)

そもそも「優れた社外取締役を評価する市場」が存在しない日本において、大手企業の重大な経営判断を任せられる人材をどのように評価、選択できるのか、といった根源的な疑問が生じ、また、たとえ選択できたとしても、経営経験豊富な元経営者であればあるほど慎重な判断姿勢となり、リスクテイクは期待できなくなるのではないか、といった懸念が示されています。今年3月にガバナンス・コードが(2018年以来)再改訂され、企業価値向上のために社外取締役が果たすべき役割が高まる時代になるからこそ、このような懸念が重大に映るようになるのでしょうね。

上記コラムは「攻めのガバナンス」という視点からのご意見ですが、私は「守りのガバナンス」という視点からも、社外取締役の数が増えることは不祥事リスク(正確には企業自身のレピュテーションリスク)を高める一面もあると考えています。一般的には社外取締役が増えることは企業不祥事の防止に資する、と言われておりますが、みなさまご承知のとおり、決して「防止」には役に立たず、ただ不祥事が発覚した場面、つまり企業が有事に直面した際には役に立つ(場合もある)、ということだと理解しております。

ではなぜ社外取締役の数が増えると不祥事リスクも高まるのか。それは、「何が不祥事なのか」、会社の役員にとって判断することはむずかしい、ということに起因します。たとえば「改ざん」「やらせ」「偽装」「不正会計」(就業規則に定められている)「〇〇会社の社員として品位を害する行為」といった解釈は人によって異なります。社外取締役は「社外の常識」を錦の御旗として「これは(社会一般からみたら)偽装ではないか」「これは品位を害する行為ではないか。皆さんは社内の常識にとらわれすぎている!」と意見を述べる。「社外の常識」といいながら、実は「その方の常識」であったりするわけです。

もちろん社内の役員・経営幹部からすれば、きちんと説明をすれば「本件は改ざんや偽装にはあたらない」と解釈する正当な理由はあるわけですが、社外取締役との意見の相違、ひいては「取締役会を全員一致ではなく、過半数決議で通すこと」はなるべく回避したいため、再発防止のための施策を(しぶしぶ)検討するということになります。

こういったことが何度か繰り返されますと、そのうち経営者も「この問題は社外役員の方たちから批判が出る可能性があるから、役員会には上げないで処理しよう」ということになります。つまり「違法行為だから一部の役員で処理しよう」ということではなく「違法の疑いが生じる、違法だと誤解を生じさせるから一部の役員で処理しよう」という結論になるわけです。

さて、これで一件落着なら問題ないのですが、時折、この「内々で処理した問題」が表面化して、世間で「改ざん」「偽装」「ヤラセ」等が問題になるケースがあります。きちんと取締役会で議論して「違法ではない(偽装や改ざんではない)」という判断になっていれば、世間にも説明できるのですが、(議論になることが面倒だから、ということで)取締役会に上程していなかったこと(正常なプロセスを経ていないこと)が世間的には「後ろめたい気持ちがあったから役員会に上程しなかった」と理解される(推定される)ことになります。

私の経験上、これはとてもマズい。本来ならば「最後のひと手間」によって違法行為ではないことを公明正大に説明できるにもかかわらず、その「ひと手間」を惜しむことで窮地に陥るケースがあることは、あまり知られていないと思います(具体的な事例に沿って解説をしたいのですが、ここでは長くなりますので、また当職の講演等でお話をいたします)。

この「最後のひと手間をおしむこと」による不祥事リスクが、役員会に独立社外取締役の数が増えることによって高まっているように感じています。上記コラムの指摘するとおり、「攻めの経営」におけるリスクが高まる面もありますが、私はこの「守りの経営」の面でも良いことばかりではなく、熱心な社外取締役さんが増えることによるリスクについても考慮しておく必要があると考えます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。