SNSが引き出すトレンド

外から見ていると日本のトレンドのきっかけはほんのちょっとしたところからSNSで一気に開花する傾向がより強まった気がします。コロナ禍でビジネスオーナーが試行錯誤をしている、あるいはその主張ややり方に共感した顧客らがSNSにアップし、それで一気に広がる傾向がより鮮明になってきたように感じます。

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まずはマスク。先日は大学入試試験で鼻だしマスクの受験者が6回注意され、それでも直さなかったため、試験失格になり、一時話題になりました。鼻だしは日本の中ではもはや許されないスタイルとなったようです。

姜昌一韓国駐日大使が着任のインタビューを受けていた際は鼻だしどころかしゃべっているうちにマスクがどんどん下がっていき、口が見えそうになっていました。メディアも意地悪で姜大使の話の中身よりも下がるマスクをアップしていました。数週間前、小泉環境大臣もインタビューの際、しゃべるとマスクが鼻だしになり、それを頻繁に直しているしぐさが奇妙に印象的だったのですが、あれも内容よりしぐさがニュースの対象だったのかもしれません。

潔癖な日本人にとってもはやマスクをしないことはあり得ないどころかすぐさま警察に通報されてしまう時代です。警察もたまったものではなく、それらの訳が分からない通報の中から真の答えを引き出すのは容易ではないでしょう。いまや、それどころか「マスク警察」「自粛警察」などといった「警察シリーズ」まで飛び出しています。

不織布マスクでなきゃダメ、という最近のトレンドは多分、一部の美容系店舗で「当店では不織布マスクの着用をお願いしています」と来店客に無料で配っているシーンがテレビニュースでたびたび流されたことがきっかけかと思います。挙句の果てにウレタンマスク、布マスク、不織布マスクの効果の違いをスーパーコンピューター富岳で解析した結果を参照にしてしまいます。一方で完璧マスクを目指すなら「N95でしょう」と医療用マスクがその最高峰だといわんばかりの報道もあり、一種のブームであります。

メーカー側も大変でN95の日本での生産能力はコロナ前が月55万枚、今では月に1500-2000万枚まで上がっていますが、それでもひっ迫感があるとのことです。ではユニクロのエアリズムマスクはどうなるのか、という話はあまり報じられません。エアリズムは不織布ではないけれどフィルターが入っており高機能とされます。販売された頃はみな飛びついたわけですが、どんどんそのトレンドが変わっていくのはSNSがもたらす短期的志向傾向がより鮮明になったと言わざるを得まえせん。

もう一つが黙食。これは福岡の飲食店がスタートで「黙食をおねがいします」という張り紙そのものが話題となり、その張り紙のデザインまで他店がパクリ、店の入り口には黙食のサインが出ているところが増え、更に黙食で完食ならおまけがつくというサービスを提供する飲食店も現れ、黙食ブームも展開されているところであります。こちらもトレンドの期間は非常に短いと思います。多分、2-3カ月も持たないのではないかという気もします。

SNSによる話題とトレンドは無視できません。アパレル業界ではトレンドに合わせて少量をトレンドに合わせ速攻で製造販売するSPAというスタイルが当たり前になりましたが、今ではアパレル業界のSPAがどの業種やサービススタイルにも適用されるようになったとも言えます。

但し、それが本当のトレンドなのか、ごく短い間の話題で終わるのか、その判断の見極めをしないとちょっと遅れて参入したものの話題先行で実際は既に飽きられていたということも大いに出てくるでしょう。黙食で飲み会、やり取りはLINEでチャットというので思い出すのがテキストでのやり取りがブームになり始めた頃、カップルが喫茶店で直接会話をせず、「何、飲む?」「えー、どれもおいしそうで決められない」という無意味なチャットを延々と繰り広げていたあの時代とそっくり被るのであります。

もう一つはSNSトレンドに乗っても、時代の流れが一気に逆流した場合、SNSはそれを叩く傾向もあるため、短絡的にSNSブームに乗ることはリスク含みであることは頭に入れておいた方がよさそうです。また、SNSだけに賛成と反対が明白に出やすく、それが原因で理由もない誹謗中傷の対象になりかねないこともあるでしょう。

とはいえ、SNSをマーケティングツールの重要な手段とみる向きは明白で、それが今まではBtoCだったのがその影響力が大きくBtoBにまで広がりを見せているのは無視できない流れであります。個人的にはコロナは非常態、つまりアブノーマルであることを鑑みれば常態に戻るまでの紆余曲折だと考えるしかないのでしょう。

この事態はもう元に戻らないとするならば私からの一つの提案は飲食できるフェイスシールドを誰か開発してくれないかな、ということでしょうかね?飲み屋でそれを無料で配ってくれれば今後の飲み会はフェイスシールド越しで楽になります。それは案外、世界規模のトレンドになりえるような気がします。高級レストランで紳士淑女がフォークとナイフを片手にフェイスシールド越しに会話しているんじゃハリウッド映画業界は泣くかもしれませんが。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月26日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。