「菅政権の本気度は半端ではない」
内閣官房参与を務める著者の高橋洋一は、菅首相の改革姿勢をこう評価する。もう一人の著者である原英史は、第1次安倍政権時から共に公務員制度改革に取り組んできた高橋の盟友だ。脱藩官僚として霞ヶ関との対決を厭わず、本書では菅内閣が進める改革リストを提示している。
経済政策を連想させる「スガノミクス」との書名ではあるが、実際には菅政権で取り組むべき目玉政策の解説本である。「デジタル庁の創設は、改革の象徴であり、組織の縦割りを排し、強力な権能と初年度は三千億円の予算を持った司令塔として、国全体のデジタル化を主導します」
通常国会冒頭の施政方針演説で菅首相が強調したデジタル化は、本書で上げられている行政手続き、教育、診療からリモート勤務を前提とした労働法制のあり方など、その影響は多分野に渡る。
その他にも全国の地銀の統合、再生可能エネルギーと脱炭素、放送と通信の問題などに、具体的な改革案を提示する。興味深いのは、改革を進める著者を追い落とそうとする反対派の攻勢だ。メディアによる怪文書まがいの歪曲記事と、それを利用する国会議員の言動。
自宅住所が一般に公開されるなど、あらゆる脅迫まがいの情報戦に晒される様は、まさに利害関係者にとっては生き死を懸けた闘いであることを示している。原は、これをマスコミ・野党議員・業界団体や役所によって組織された「新・利権トライアングル」と呼ぶ。改革とは、まさに彼らを向こうに回しての暗闘という側面もある。
結局のところ、安倍一強と言われた安倍政権でさえも官邸主導は貫徹出来ず、官僚機構の力に勝てなかったというのが著者らの見立てである。官僚機構に伍していくため人事権を盾に発足したはずの内閣人事局も、霞ヶ関を制御するには至っていないのが現状だ。
政権発足当初こそデジタル庁、携帯電話料金引き下げ、不妊治療などの目玉政策で注目を集めた菅内閣だが、昨年末からは増え続ける新規感染者と病床数の逼迫問題などコロナ対策で防戦一方。改革政権として日本社会の構造を劇的に変革するための処方箋を提示しようにも、目の前のコロナ対策への対処を求める国民には腰を据えて耳を傾ける余裕はないのだろうか。
しかし、行政手続き、教育、労働のあり方、診療など社会のデジタル化を進化させることも中長期的なコロナ対策である。正念場の菅政権ではあるが、その火事場の馬鹿力に期待している。
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小林 武史 国会議員秘書
カイロ・アメリカン大学国際関係論修士過程修了。2005年法大卒(剛柔流空手道部第42代で、第10代菅義偉氏の後輩)。日本貿易振興機構(ジェトロ)を2013年退職。