詐欺や経歴詐称だらけの現代で、搾取されないための2つの自衛策

黒坂岳央(くろさか たけを)です。 

凶悪事件は減り、詐欺が増えた

「凶悪事件が増えて殺伐とした世の中になり、人々の心は砂漠のように乾ききっている」などと言われる。このような感覚はいつの時代も言われていることだろう。しかし、警察庁の発表した「人口10万人当たりの発生件数」を見ると、比較的近年に入ってからも我が国の殺人事件件数は減少の傾向にあることがわかる。

「日本は物騒になった」などという感覚は、情報のマルチメディア化で、多面的に、能動的にニュースを得られるようになったことによる錯覚であり、実際には先進諸国と比べても日本の犯罪率は低く、近年の発生件数も減少している。強盗などの凶悪犯罪も同じ傾向だ。

 その一方で、詐欺やハイテク犯罪は増加している。こちらの図を見ていただきたい。

これはオレオレ詐欺や還付金詐欺、架空請求などの認知件数及び被害額である。その他、キャッシュカードや電子マネーの不当利用による詐欺も増加傾向にある。

言葉が適切であるかはわからないが、犯罪者にとっては詐欺を働く方が、力づくで強奪するより「コスパが良い」と言えるのかもしれない。

我が国の検挙率は極めて高く、個人宅への強盗や、路上での強奪、銀行強盗はほぼ確実に捕まってしまう。その一方で、特殊詐欺は目の前に犯人がいないために、特にハイテク犯罪はその全てが検挙できるわけではないのだ。

実際、「コインチェック」から2018年1月に約580億円分の仮想通貨NEMが盗まれた事件では、先月になって約3年越しに不正交換容疑で約30人が摘発されたニュースが話題になったが、主犯の実行犯はまだ捕まっていない。さらに現金輸送車や銀行を襲っても、これだけ巨額なキャッシュを強奪することは現実的ではない。詐欺やハイテク犯罪の件数が増え、さらに被害額も増加しているのは、犯罪者側に有利だからである。 

最大の防衛策は「知識」

それではここからは具体的に、詐欺の被害にあわないための自衛策を取り上げたい。まずは「知識をつける」ことが重要といえるだろう。

詐欺は情報の非対称性の高さから生まれる。情報の非対称性とは、「相手には100の情報があるけど、こちらには90の情報しかない」という情報のパワーバランスのことだ。この差が開くほど、詐欺にあう可能性が高まる。

たとえば、供給者側が強い知識を持っていて、顧客がそうでない専門性の高い領域で起こりやすい。コスト高でリスキーな投資案件を勧められるままに買ってしまい、知らないうちにコストとリスクを押し付けられる事例などは、まさしくこの「情報非対称性の大きさ」から来ていると言えるだろう。「知識がない初心者なので、ぜひ詳しく教えて下さい」などの姿勢を見せてしまうことは、供給者側にとっては美しい謙虚さというよりカモネギ状態に見えてしまうのが現代社会である。

情報非対称性の差を埋めるには、知識をつけることだ。投資詐欺案件で見かけるのは「これに投資をすれば絶対に稼げます」のようなものだろう。投資の世界には「絶対」という概念が存在しないことを理解するだけでも、安易に「絶対に稼げる」などといった主張をする者に対して、ワーニングと捉えて良いだろう。

また、強引な勧誘や、「3日でペラペラになれる」などの誇大広告を打つ英会話学校なども警戒が必要だ。詐欺とまでは言えないが、これだけ英語学習を取り巻く環境が整っている現代において、コストとリターンが見合わないレッスンを提供するスクールは遠ざけるのが懸命だろう。この場合も、「数日間という、極めて短期間で英語力が身につくことは不可能」「意欲的な姿勢なくして語学の取得はありえない」というベーシックな理解をしておくだけでも、被害を防止できるだろう。

オピニオンの多面的な分析

もう一つの自衛策としては、情報を多面的に分析する姿勢があげられる。特に人間は苦労して手に入れた知識や経験、知り得た人脈を「正しい」と曲解認識する傾向にあるために、相手から話を聞く「前」にこの分析をされることが推奨される。下記に実例をあげる。

kuppa_rock/iStock

SNSなどでカリスマ的な求心力を持つ人物を見かけることがある。信者が教祖を崇めている構図になっており、詐称していた経歴で人々を集めていたものの、それが明らかになった後もフォローしていた人たちは「経歴は違っていたかもしれないが、この人は誤りを認めた信用できる人物だ」などと返しているのをみて驚いたことがある。本当に信用に値する人物であれば、最初から経歴を詐称することはないことは明らかだ。それにも関わらず、周囲が糾弾する様子を見て、支持者の信仰心はますます高まるという展開に驚いた。

だから見も知らぬ相手やビジネスを信じる「前」に、そのオピニオンに対する分析を多面的に行うことが肝要だと考える。これは第3者の見解を借りるという発想だ。その際は「個人のかんそおぶん」ではなく、ファクトに基づく冷静な分析を拠り所にすることが求められるだろう。

筆者は昔、とある人物の提供していたアドバイザリーサービスの購入を迷っていた。念の為、その人物について軽く調べたところ過去に詐欺を働いていたとして、集団訴訟を受けている危険人物と知り、驚愕したことがある。まっとうなビジネスをしている人は、集団訴訟を受けることなどないわけだから、そのような客観的証拠がその人物の危険性を示してくれたわけだ。その後、その人物は姿を消した。もう少しで大金を支払う事になったと、ヒヤリとした経験をしたものだ。

凶悪犯罪は減ったが、その一方で詐欺や詐称は増加して、何を信用していいのか分からない時代になった。現代は生き方、働き方も「個の時代になった」と言われて久しいが、こと犯罪被害の防止についても個人で防衛力が求められる時代になったと言えよう。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。