森喜朗氏の「女性蔑視」発言が世界に波紋を呼んでいるが、これはネット上の伝言ゲームがフェイクニュースとして拡散した典型だ。これを2月3日の毎日新聞はこう報道した。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は3日、東京都内で開かれた日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会で、日本ラグビー協会を例に出しながら「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。女性は優れており、競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言うと、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。それでみんなが発言される」と述べた。女性蔑視とも受け止められる発言で波紋を広げそうだ。
これを他社が追いかけて「女性理事の話は時間がかかる」とか「女性の発言を規制しなければならない」という部分だけを取り上げ、NYタイムズまで報じた。
それを日本のマスコミが引用し、ハフィントンポストなどのネットメディアも追いかけ、「女性蔑視」という話がマスコミでもネットでも流通した。
こういう報道を受けて森氏が8日に記者会見して発言を撤回して謝罪した。それでも飽き足りない人々は辞任を求めているが、元の発言はこうである。
女性理事を4割というのは文科省がうるさく言うんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますがラグビー協会は今までの倍時間がかかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた(一同笑い)。5人います。
女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か一人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまり言うと新聞に悪口書かれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、「女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困る」と言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります。
私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます。みんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を射た、そういうのが集約されて非常に我々役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。
これは「ラグビー協会の女性理事は話が長いが、組織委員会の女性理事の話は的を射ている」という社交辞令で、「発言を規制する」という部分は他人の話を引用した冗談である。第一報の毎日新聞では後半の組織委員会の話まで書かれ、NYタイムズも書いているが、ここでは発言の規制についての主語が
“You have to regulate speaking time to some extent,” Mr. Mori said.
と森氏に置き換わり、それを逆輸入したハフポストの記事には後半の組織委員会の話が抜けている。その後は「女性蔑視発言」という略称でネット上に出回り、政局やオリンピック開催と結びつけて騒がれ、「#わきまえない女」というのがツイッターのトレンドになっているが、お門違いである。
私には森氏を擁護する義理はないが、ラグビーのような男のスポーツの団体に女性理事を入れたら、トンチンカンな話をすることもあるだろう。「ジェンダー平等」が役所の人事をゆがめていることは事実だが、この発言はそういう女性一般の処遇とは無関係な、身近の女性についての世間話にすぎない。くだらない騒ぎはもうやめるべきだ。
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