4年ほど前から買取意向の話をしていた新宿区の不動産についてひょんなことで売買合意にこぎつけました。しかも今回は久々の不動産屋を介さない直取引、しかも私はカナダから出られずで、どう準備しようかと思案しました。法的な手続きは司法書士がやるので構いません。ただ、その前段である売買金額の査定、交渉など不動産の詳細を知るには登記簿謄本がないと何も始まらないのですが世の中便利になったものです。
この登記簿謄本、今ではインターネットで取得できるのです。数百円の手数料をクレジットカード払いすれば瞬時で取得できます。このおかげで売買がスムーズになったといっても過言はないでしょう。
この登記システム、日本独自のものでありますが、不動産に限れば何のためにあるのかと言えば第三者への対抗要件と考えてよいと思います。つまり、個人の戸籍や住民票は個人情報守秘のため、他人は簡単に取得できないのですが、不動産登記は真逆でオープンにするためのものであり、誰でも簡単に取得できるのです。それこそ、隣の土地、誰が持っているの、と疑問があれば誰でもすぐにネットで登記簿謄本をダウンロードできるのです。
だいぶ前ですが、ある不動産で成約には至らなかったのですが、直取引にて買取交渉していました。登記簿には相当昔にお亡くなりになった方のお名前が記されています。交渉の際、「それで、現在、一体どなたがお持ちなのでしょうか?」と伺うと5人ぐらい出てきて挙句の果てに持ち分で言い争いが始まり、ある方は私に言い寄り「どうぞ高く買ってください」、ある方は「相続でも揉めているしねぇ、簡単じゃないですよ」と警告をくれた方もいました。
相続がうまくいっていないと登記にすらたどり着かない、ということなのです。
これが一気に変わる気配が見えてきました。法務省の諮問機関の法制審議会が登記の流れを全面改定する答申をしたのです。激変の第一歩と言ってよいでしょう。特に注目されるのが、①取得を知ってから3年以内に登記しないと罰金 ②10年放置なら法定割合で自動分割、③死亡者が登記されたままの物件は公に開示される、④土地の相続放棄がしやすくなる ⑤所有者の所在の明確化で海外居住者は国内連絡先を記載、とあります。
まず、罰則規定付きの登記義務ですが、これは中途半端です。なぜなら罰金はたったの10万円なのです。不動産が何千万、何億円という単位なのに10万円はいかにも安すぎます。そういう決め方ではなく、固定資産税評価額の2-3%という方がパンチが効きます。
当地(カナダ)における不動産のペナルティは概ね固定資産税評価額をベースにした罰則規定です。また、その罰金をどう回収するか、その仕組みは記載がないので多分、何も考えていないのかと思います。カナダでは不動産に担保設定(Lien=先取特権)を登記し、登記移転の際、その金額が公庫に自動的に入金される仕組みとなっています。この仕組みはあらゆるところに応用できます。例えばマンションの管理費を払わない人がいれば管理組合が先取特権の登記をするのは非常に当たり前なのです。
次に②の自動分割ですが、日本の場合は相続人不明という問題が大きいでしょう。そもそも相続ができるなら10年も放置しないわけでできない理由が存在しているのです。その場合の答えが見えません。所有者不明の土地が国土の2割あることを解決するための仕組みづくりとしてはもう一段、踏み込んでほしいところです。
では④の相続放棄で国が没収するという仕組みになるのか、と言えば日本の制度からしてそのような強権はなく、受動的引き受けと思われます。海外では不動産の没収なんて当たり前です。例えばカナダでは一定年齢になったら遺言状を書くのは当たり前、と言われるのはある時、ぽっくり行っちゃった場合に明白な相続が記載されておらず、法定相続人もよくわからない場合、国が喜んで没収し、競売にかけてしまうからです。50歳になったら遺言状を書き、弁護士などにその手続きをさせるというのはあまりにもドライでありますが、システマティックであるとも言えます。
但し、④の仕組みは国家防衛上、挿入した条項案ではないかという気もします。多くの山林は今や誰も興味を持ちません。開発もできないから「じいちゃんはね、あの山をぜーんぶ持っているんだよ」と言われても娘は「わたし、いらなーい」というのは当然の会話なのです。しかし、山林や島しょといった僻地の不動産は場所により極めて重要な意味合いを持ちます。壱岐や五島列島、北海道の山林などが諸外国のターゲットになっているのはご承知のとおりです。これらの不動産を国が取得できる仕組みはマストであったわけです。但しこの条文案は「土地」となっているので建物は入らないことが肝かと思います。
まだ諮問機関の話ですからこれからもんでいくのだと思いますが、せっかくならもう少し現実的な手順を決めてほしいと思います。とっかかりとしては評価できると思いますが、ここまでやれるならもあと一歩、踏み込んでもらえれば不動産の問題解決に大いに役立つと考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月15日の記事より転載させていただきました。