今こそ会社法上の「会計監査人設置義務」への関心を高めよ-フタバ図書粉飾案件に思う

日曜日の夜の東京新聞ニュースでは「電子機器や服飾を含む日本の主要小売り・製造業12社が、中国新疆ウイグル自治区などでの少数民族ウイグル族に対する強制労働への関与が取引先の中国企業で確認された場合、取引を停止する方針を固めたことが21日、共同通信の取材で分かった」と報じています。先日、東京オリ・パラ元組織委員会会長の発言問題について、スポンサー企業がどのようなコメントをしたのか、という点が(比較されて)話題になっていましたが、もはや「ESGは企業価値向上に役立つか」などとフワっとした議論をしている時代ではなくなってきましたね(たいへんだぞ、これは・・・)。以下本題です。

(フタバ図書 公式Twitterから)

2月20日の中国新聞デジタルのニュース「フタバ図書、10年間粉飾 在庫や資産償却を不適切記載」では、広島の書店チェーン大手のフタバ図書(非上場会社)が10年にわたって決算書に書く在庫を実際より多くしたり、固定資産の償却を小さくしたりして、不適切な計算書類を作成していたことが報じられています。また、別の中国新聞記事では、借入先の金融機関の数を少なく記載して、過小の債務総額を取引先金融機関に示していた、とも報じられていました。

これまで粉飾を説明してこなかったのは「上場会社のような開示義務がある企業を除き、企業価値を損なわないぬよう非開示が原則。信用不安からの破綻を回避しようと考えた」というのが会社側の説明だそうです。しかし、上記中国新聞の記事が正確に伝えているとすれば、この会社側の表現は誤解を招くものと思います。

上場会社ではなくても、株式会社である以上(つまり会社法が適用される会社である以上)、フタバ図書には計算書類(BSやPL)や事業報告について開示義務があります(会社法440条1項、同442条1項1号)。実際には開示義務を果たしていない非上場会社が多いことは事実ですし、また有価証券報告書の提出義務はありませんが、「法律上の開示義務がない」とは言えません。さらに、計算書類の内容についても、会社法では虚偽記載は過料の制裁が規定されていますので(同976条7号)、破綻を回避するために(会社の信用を維持するために)不適切な記載が許されるわけでもありません。

とりわけフタバ図書の場合、そもそも同社は金融機関からの借り入れだけでも総額235億円に上るということですから、会社法上の「大会社」に該当するはずです(同法2条6号。「大会社である」と断定できないのは、最終事業年度の貸借対照表に負債200億円以上が実際に計上されているかどうかはわからないため)。

ご承知の方も多いと思いますが、会社法上の大会社に該当すれば、会計監査人の設置義務がありますし(同法328条2項)、内部統制の基本方針についての決議義務も発生します(同法362条5項)。同社が会計監査人を設置していれば、まちがいなく粉飾決算を防止でき、仮に防止できないとしても、粉飾に対して早期に対応できることになり、今回のようにステークホルダーに迷惑(9割の貸付債権免除)をかけることもなかったはずです。

会社としては「当社は会計監査人設置会社である」という認識はなかったのでしょうか?あるいは、取引先金融機関として、会計監査人を設置すべきだ、と要求することはなかったのでしょうか?ぜひ、このあたりは更なるニュースで明らかにしていただきたい。

ところで、2010年に発覚した林原の会計不正事件のときにも思いましたが(2013年8月19日拙ブログエントリー「金融検査の見直しと林原の破綻」参照)、会社法上の大会社のように、会計監査人を設置しなければならないにもかかわらず、これを放置している会社が、日本にはかなり多いはずです(以前、日本公認会計士協会が、登記簿上の5億円以上の資本金を調査したことがあったように記憶しています)。林原のケースでは登記簿上の資本金5億円企業なので明確ですが、フタバ図書のように「負債額200億以上」となると、取引先金融機関でもなければ、なかなか指摘することはできないのかもしれません。

今後、金融機関も融資先の事業リスクの定量化を図り、M&A等の仲介事業なども手掛ける時代となりますと、これまで以上に融資先の会計不正には注意を向けなければならないと考えます。そうであれば、融資先に会計監査人設置義務があるのか、財務報告に関連する内部統制の構築義務があるのかどうか、という点には強い関心を示す必要があるのではないでしょうか。今回のフタバ図書の事例では「借入先金融機関の数を過少説明され、債務総額が見えにくかった」という事情があったのかもしれませんが、そもそも「会計数値」への信頼が融資業務において軽視されてきたのではないか、といった疑問がわいてきます。

当ブログでは何度も「会社法上の過料規定-976条-は時代に合わなくなってきたので、必要に応じて刑事罰規定に改正せよ」と言ってきましたが、計算書類の虚偽記載規定とともに、会計監査人の設置義務違反についても刑事罰化することが、「担保」偏重ではなく、事業リスク重視による金融機関の融資姿勢の変化を促すことになるのではないか、と考えております。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。