ビジネス法務とは関係ありませんが、財務省のコンプライアンス・アドバイザーを務めたり、人事院の要請等で、何度か国家公務員(幹部)の方々への倫理研修の講師を務めている者として、総務省幹部職員への処分に関する武田大臣の記者会見の発言について一言、二言。以下はNHKニュース記事からの引用です。
11人の職員がいずれも調査に対し「会食当時、東北新社が利害関係者にあたるとは思わなかった」と説明したことについて、(武田大臣は-注)「国家公務員倫理法令違反に対する認識の甘さ、知識の不足が大きな要因と考えている。日頃からの意識付けや、事前・事後のチェックなど、再発防止策を速やかに実施に移し、疑念を招くことが二度と起こらないよう全力で国民の信頼回復に努めたい」と述べました。
うーーーん、これは私の認識とは大きく相違していますね。官僚(とりわけ各部署の幹部級)の皆様は優秀だし、規範意識も高いので、「利害関係者」にあたるとは思わなかった、といった「緩さ」は考えられません。1990年代のノー〇ンしゃぶしゃぶ事件以来、国家公務員倫理審査会が毎年「企業倫理週間」を定めて、倫理規程の浸透を図っている状況からすれば、利害関係者の認識がなかったとか、倫理意識が低かったというのはありえないと思います。
むしろ、規範意識も高く、また倫理規程も熟知していながら、なぜ利害関係者にご馳走になってしまうのか・・・というところをきちんと考えるべきであり、これは企業不祥事を発生させてしまう上場会社の役職員のコンプライアンス研修と同じです。そして、このように書くと「ではやっぱり政治家からの圧力や政治家への忖度?」と考えてしまいがちですが、それも私は短絡的な考え方だと思います。
私は「なぜ文春の記者がそこにいるのか?なぜ用意周到に録音データまで握られてしまう環境にあったのか」というところにヒントがあるように思います。文春の記者だって神様じゃないわけで(笑)、なんらかの情報提供があるからこそニュースの端緒を掴めるわけです(もちろん取材源秘匿権がありますので絶対に開示されませんが)。このような環境を作ってしまう「緩さ」は、官僚の皆様方のどのような性質に由来しているのでしょうか・・・。
ちなみに、上記のような理由がまかり通るのであれば、一定の地位にある官僚の皆様には継続的な倫理研修義務を課してはいかがでしょうか。弁護士も5年~10年に一度、弁護士倫理研修を受講しなければならず、この受講義務を履行しないと懲戒処分となるおそれがあります(現に東京の先生に懲戒処分が下されました)。
倫理研修の義務化の妨げとなるのは「公務の清廉性」「公務員の無謬性」の思想だと思いますが、これだけ立て続けに倫理違反行為が起きるということは、「公務員も悪事をはたらく可能性がある(いわゆる性弱説)」「理屈ではなく、一般の国民から公務員の行動がどうみえるか」ということを前提とした対策も必要ではないかと。官僚の皆様も、倫理研修は必須として、5年ごとに受講義務を課し、「利害関係者にあたるとは思わなかった」なる理由が出てこないようにしていただきたいですね。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。