日本はなぜリーダーになれないのか?

新型コロナに対するワクチン開発に於いて日本企業の名は世界レベルではほぼ耳にすることがありません。1980年代までは日本はワクチン開発では世界の最先端グループでした。ところがその頃からワクチンの副反応に対する訴訟合戦が始まります。天然痘、三種混合、MMRといったもので、日本の医薬品メーカーと厚労省は守勢に回ります。そして裁判で負け続け、メーカーは巨額の賠償金支払い命令となり、国もワクチン認可に対して何重もの管理項目を加えます。

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こうなると医薬品メーカーは正直、ワクチンを避け、違う医薬品を目指すようなり、日本でのワクチン開発がほとんど進まないようになったのです。今回の新型コロナに対する国内メーカーのワクチン開発は塩野義、第一三共、アンジェスといった上場会社や中規模メーカーが推進していますが、まったく太刀打ちできず、少なくとも今年のものにはなりません。

原子力発電の世界を見てみましょう。10年前の原発事故以来、日本は原発恐怖症にかかってしまいました。何が何でもいやなのです。怨嗟ですね。原子力規制員会もその名の通り、「規制」するためであり、ブレーキをかけることはあってもアクセルを吹かすことはありません。更に地元の承認プロセスまで考えると原子力発電を活用することは極めて困難な状況にあります。ましてや東電の柏崎などは本質的には再稼働できなくはないのですが、様々な難癖をつけ、今回はテロ対策不備で当面、交渉の舞台にすら上げてもらえません。

ところが先日もちらっと書きましたが、世界では原子力発電復活の兆しが強まってきています。理由はカーボンニュートラルを達成するのに原子力発電に頼らざるを得ないのが実情だからです。中国は現在、16基建築中で更に39基計画されています。アメリカはそもそも世界最大の原子力発電国家であり、現在、104基稼働中で2位のフランスには58基であります。日本で稼働中は9基に留まります。

日経ビジネスの特集に「ベゾスvsマスク ついに来た宇宙経済ビッグバン」とあり、面白く読ませてもらいました。宇宙開発は国主導だったものがアメリカでは民間主導になり、その成功率はスペースXのみならず非常に安定的なビジネスになりつつあります。宇宙と言っても商業衛星分野では様々な企業が競い合っているわけですが、日本がその先頭を切ることはありません。理由は何度かの打ち上げ失敗に伴う予算付けが難しいこと、国内宇宙開発が大学主導でスタートというユニークな背景、現在はJAXA主導のもと、三菱重工、IHI、川崎重工などがそれを支援する体制が固まり、他社が入り込む余地がほとんどないことが考えられます。

宇宙開発は失敗を恐れず、繰り返し、何度もやりながら極めていくわけですが、日本の場合、企業文化も政府の仕組みも「失敗するリスクは取りたくない」のがありありとしています。アマゾンのベゾス氏にしろ、テスラのマスク氏にしろ、リスクを取ったビジネスで勝ち上がった成功者であり、常にそのなした財を担保に挑戦に挑み、またアメリカが失敗を教訓としてやり直すことに拍手で声援する社会がある点が最大の違いでしょう。

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三つの事例をみるとお分かりいただけると思いますが、日本は極めてリスクに敏感であり、事なかれ主義になっています。ワクチンの開発でも企業的には「そんなことやっても厚労省の許可取得は難しいし副反応が出て訴訟でもされたら会社はイチコロだ」と役員は叫ぶでしょう。原発なんて言葉も聞きたくないという住民に既存原発の再稼働どころか、研究が進む小型原発なんて「へぇ、開発は結構だけどうちのそばには設置しないでくれ。(だけど電力は欲しいけどな。)」です。ましてや宇宙なんて「そんなもの、金にならへん。飯は食えんよ。」とばしっと斬られるのがオチです。

外から見る日本は新たなる技術や創造に於いて先進国とは思えないほど劣りつつあります。それは議論の多さもありますが、政府や企業の推進力が鈍っていることもあります。最近日経新聞を読んでいても企業欄であっと言わせるような新製品、目を見張るような記事が少なくなり、私はアメリカのビジネスニュースを読むことが多くなっています。

日本企業が小粒になったこともあります。三菱重工はスペースジェットの商用化すらできないのです。下請けはできるけれど元請けはできません。スマホシェアは日本ではアップルが40%越え、2位のソニーと3位のシャープを合わせて30%、サムソン、ファーウェイを合わせて14%などとなっています。これは日本国内のシェアであって他国に行けば日本製のスマホは本当に厳しいのです。

以前、武田がシャイアーを7兆円で買収するという発表した時、ネガティブな声が多かったのを覚えています。しかし、日本の医薬品メーカーは世界で上位にランクインできません。理由は資金力であり、開発能力であり、国際的視野であります。私はこの合併はよい挑戦だと評価しました。

日本がリーダーシップをとるにはまず、会社の規模を今の何倍にもすること、そのためには積極的に国内外でM&Aを行い、国際企業として立ち位置を変えること、役員構成において女性を増やそうという声がありますが、外国人を増やすことを並列に並べたほうがよいと思います。10人役員がいたら日本人は最大4-5人でよいと思います。

中国の発展ぶりは恐ろしいスピードであり、同国のGDPが6%程度だけどそんなのは嘘だからというのはウサギと亀の話になってしまいます。中国の先端企業や中国政府支援産業は日本の倍速、3倍速だということに早く気が付くべきでしょう。さもないといつまでも老体のアメリカに頼らざるを得ないことになると危惧しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。