アニメやゲームでリメイクが流行る理由は「少子高齢化」

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

HbrH/iStock

昨今、過去の作品を最新技術で作り直す「リメイク作品」が流行っていると感じる。

この傾向に文句をつけるつもりはない。高い品質が伴っていれば悪いことではないし、実際、筆者自身もいろいろなリメイク作品を楽しませてもらっている立場だ。気になるのは「なぜ、ゲームやアニメでリメイク作品が多く生産されるのか?」という事情だ。

結論を言えばこれにはビジネス事情が絡んでいる。もはや、10代・20代の若い層をターゲットに作品を作っても大ヒットは望めず、今や作品の企画の立ち上げも、それを堪能する消費者も「40代以降の中年世代」なのだという。つまり、このトレンドには「少子高齢化の影響」が少なからずあるということだ。

子供向け、若者向けコンテンツのヒットは難しくなった

日経クロストレンドの記事で、「子供向け、若者向けのエンタメコンテンツで大ヒットは難しくなった」と取り上げられている。その理由を端的に言えば、次の2つだ。

・かつてのテレビのように「同じコンテンツを話題にする」ものがない。

・少子高齢化で子供や若者が減っている。

筆者が子供時代、小学校の時は「人気テレビ番組」が共通の話題だった。クラスメートに顔を合わせるやいなや、挨拶もそこそこにまず飛び出すのは「昨日のあれ見た?」である。言わずもがな、人気テレビ番組のことだ。筆者は流行りものが苦手で、昔からあまりテレビを熱心に見なかった。そのため「理解していることを前提」が辛かったと記憶している。同調圧力に負け、興味もないのに話題に乗るために無理に番組を見たこともある。

だが、今や同じテレビ番組を見て、同じ話題を共有できる時代ではなくなった。小さい子供ですら、テレビの代わりにYouTubeで個々人好きな番組を視聴する時代である。これでは共通の話題で盛り上がるのは難しい。理解共通性が失われた現代において、エンタメコンテンツで大ヒットを出しにくくなった事情はここにある(ゼロではない。だが、確実に難易度は高まっただろう)。

さらに、シンプルに少子高齢化で若い世代のボリュームゾーン減少したという事情もそれを手伝う。同記事によると、40代は20代の1.4倍も人口ボリュームがあり、今や40代の4人に1人は独身で、極めつけは20代の2倍以上エンタメに課金できる可処分所得力だ。そんな40代にヒットするのは、馴染みのある過去作品のリメイクというわけだ。

こうしたビジネス環境の大きな変化により、まったく新しい子供向け、若者向けのエンタメコンテンツのヒットが難しくなったというのだ。

目新しく、尖った作品が出づらくなる

このような状況下においては、目新しさがあり尖った作品が出づらくなってしまう点が懸念される。

コンテンツメーカー側も、あくまでビジネスとして制作をするのだから、社運をかけるような大きな冒険をしづらい立場にあるだろう。思い切ってフルスイングをして、大きなヒットを出せれば救われるだろう。だが、大きく空振りをしてしまうリスクを考えると、恐ろしい。失敗の具合によっては、社が傾くリスクもありえる。

その一方で、過去に大ヒットしたリメイク作品にはすでに大きなパイがあり、ある程度のヒットは保証されている。若い世代も「昔ヒットした作品」と紹介を受ければ、一部の人は興味を持つだろう。もしも日本の平均年齢が20代前半だとすると、リメイク作品ということで飛びつく視聴者がそれほど望めないだろう。

ビジネスを仕掛ける側として、リメイク作品は着実なヒットを出せる点でビジネスの魅力があるのだ。

アニメ化、ゲーム化は「作品の株式上場」

筆者はこの流れが続くと、新規作品の原作者側にとってアニメ化、ゲーム化が起きにくくなるのではと感じる。ここからは門外漢の素人の考察で恐縮なのだが、下記の通りその根拠を述べたい。

人気アニメ番組の原作は、ライトノベルのヒットが元となっているケースは珍しくない。「ライトノベルがヒット→アニメ化・ゲーム化」という流れになっているわけだ。そしてアニメ化、ゲーム化することで、コア層でない多数のライト層の目にも触れることにつながる。つまり、作品にとってアニメ化やゲーム化は「株式上場するようなもの」と評することができないだろうか。魅力的な作品が大衆の目に触れる「ゲーム化」「アニメ化」が起きなければ、新しい作品が多くの人の目に触れにくくなるのではと考えている。

「涼宮ハルヒの憂鬱」のヒットが好例かもしれない。この作品はライトノベルで出た後にアニメ化されて大ヒットした。特に話題になったのは、主要キャラクターたちによるエンディングのダンスだ。当時、ニコニコ動画が流行っていたのもあって、このダンスを踊る動画が多数アップされた。秋葉原の歩行者天国で、大勢のコスプレイヤーたちによるフラッシュモブも撮影され、社会現象化した。作品の内容自体も間違いなく魅力的だった。そこは否定しない。だが、涼宮ハルヒの憂鬱ほどの作品とて、もしもアニメ化されていなければ、あれほどの社会現象的ヒットになったかは分からない。

少子高齢化は、意外な部分にも影響を与えている。優れたリメイク作品ならドンドン出してほしいと考える。だが、尖った目新しい作品の登場がしづらくなったビジネス環境の変化に、懸念を覚えてしまうのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。