コロナ禍で警告する「現代の予言者」

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中国発新型コロナウイルスが世界を席巻し、多くの犠牲を出している時、ウイルスの動向をフォローするウイルス学者は休む暇なく監視を続けている。特に、新型コロナウイルスの変異株が欧州を襲撃している時だけに、欧州のウイルス学者、疫学専門家は文字通り、ウイルスとの戦いの最前線に立たされているわけだ。

▲ドイツの代表的ウイルス学者ドロステン教授(ドイツ・シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所公式サイトから)

ドイツのスター・ウイルス学者、クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)らの活躍をみると、教授のウイルス分析がドイツを含む欧州で大きな影響を与えていることが分かる。それだけに、同教授の肩には大きな責任がかかっている。SARS-CoV(重症急性呼吸器症候群)が2002年から04年にかけ中国南部の広東省を起源に感染拡大した時もいち早くウイルスを検証した実績がある。

今回もウイルス学者としてはやりがいがある時だが、時には疲労感を覚えるだけではなく、身の危険も出てくるのではないだろうか。ウイルスの感染の話ではない。同教授らが要求するコロナ規制に対し、「我々から自由を奪っている学者」として嫌われるだけではなく、強迫すら受けるからだ。同教授は昨年、「家族にも嫌がらせメールが届く」と証言している(「ウイルス学者ドロステン教授の警告」2020年10月14日参考)。

ドイツは欧州諸国の中では人口比で感染者数、死亡者数は少ない。メルケル首相は厳格なコロナ規制を実施し、その効果が出ている。メルケル首相が最も信頼するウイルス学者はドロステン教授といわれている。同教授の提案を受け、コロナ規制をこれまで実施してきた。ハイデルベルクに本部を置く「ウイルス学協会」(GfV)が集団免疫(独Herdenimmunitat)の実施を提案した時も、「ウイルスがコントロールを離れ、急増することで、死者が増加する危険がある」として反対を表明し、高齢者だけではなく、若い世代にも感染の危険が迫っていると警告を発し、国民の間に当時抵抗があった「学校ロックダウン」の必要性を表明してきた。もちろん、ウイルス学者の中からも反対の声が出たが、その後のウイルス感染の動向は教授の説が正しかったことを裏付けている。

コロナ禍が長期化してきたことを受け、コロナ疲れが国民の間にみられ、コロナ規制に抗議するデモも頻繁に行われてきた。そのような時も同教授はPodcastを通じて定期的に国民にコロナ情報を報告している。だから、と言ってはおかしいが、教授には敵が多いわけだ。

新型コロナウイルスの危険性に警鐘を鳴らしてきた同教授ら欧州ウイルス学者の動向をフォローしていると、「彼らは新型コロナ時代の予言者」といった印象を受ける。事実を語る故に、嫌われ、最悪の場合、殺された多くの旧約聖書時代の預言者と重なるわけだ。

米イェール大学の聖書学者、クリスティーネ・ヘイス教授は旧約聖書の講義の中で、「当時、預言者といえば悪い知らせを運ぶメッセンジャーと見られていた」と説明している。同じように、21世紀の予言者、ウイルス学者たちも「バッド・ニュースを伝える学者」と受け取られているわけだ。

人は自分が願っていることを語る人は歓迎するが、願っていないこと、抵抗があることを指摘する人に対しては反発するものだ。旧約時代、異教の神に仕えるイスラエル人に対し、アモス、イザヤ、エレミアなど多くの預言者は「悔い改めよ。さもなければ神の審判が下される」と警告を発したが、イスラエル人は無視し、時には彼らを迫害してきた。イエスは、「預言者は故郷では歓迎されないものだ」と述べているほどだ。預言者は常に迫害され、多数派からは嫌われる運命にある。旧約の預言者の中には、ヨナのように、預言者の運命を嫌って、神の願いから逃げようとした者もいた。

警告を受け入れ、「貴方の言っていることは正しい」と評価され、その時代から歓迎され、受け入れられた預言者はいない。それだけ預言者の使命を受けた人の一生はハードだといえる。ちなみに、預言者には、ヤーウェ的預言者とバアル的預言者がいて、エリアのように、バアルの預言者(御用予言者)と死闘を繰返さざるを得ない時代もあった。

ドロステン教授だけではない。オーストリアでも多くのウイルス学者が定期的にテレビに登場し、新型コロナの動向を分析し、国民にコロナ規制の遵守をアピールするが、その中の1人、ウィーン医科大学のウイルス学者が、「自分がテレビでコロナについて解説すると、その直後、ソーシャルネットワークで自分を中傷するコメントが飛び出してくるよ」と述べていた。コロナ規制を遵守しないと危ない、と訴えれば、それを良しとしない人々から攻撃を受けるというわけだ。

欧州でもワクチン接種が進められている。ワクチンがウイルス変異株にも効果が証明され、集団免疫状況が生まれてくるまで、ウイルス学者は、「コロナには気を付けなければならない」と警告を発し続けなければならないわけだ。われわれは21世紀の予言者の英知に感謝し、そこから学ぶことで、旧約時代の預言者の運命を再現しないようにしたいものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。