拡がる「ロングコビッド症候群」

オーストリアのルドルフ・アンショーバー保健相は13日、辞任表明の記者会見で今後の課題として3点を挙げ、その中で「ロングコビッド対策」(LongCovid症候群)を指摘していたが、感染病専門家の中で「コロナ回復者の中に後遺症と呼べる症状を抱える患者が増えてきた」という声が聞かれ出している。同時に、精神・心理療法の専門家からは、「コロナ感染者でもない者が長期のコロナ規制下で心理的圧迫感などからパニック症状を起こし、日常生活が出来なくなる人が出てきている」と警告し、コロナ対策としてロングコビッド症候群(新型コロナウイルス症候群)に対するケアの必要性を主張している。

コロナ禍で寂しいウィ―ン市内の公園風景 2021年2月14日  ウィーンで撮影

感染症専門家によると、コロナ回復者に見られる後遺症として、呼吸困難、倦怠感、胸痛、臭覚障害、味覚障害,痰嗽などだ。回復後、数カ月続き、長い人では半年以上、さまざまな症状に苦しめられ、職場に復帰できない人も出てくるだけではなく、日常生活にも支障があるという。問題は、回復者のそれらの症状を監視し、必要な治療を提供できる医療体制、専門家が少ないことだ。

調査によると、イタリアでは87%がそのような後遺症に悩まされているという。日本でも専門医の調査が報じられていた。それによると、コビッド後遺症の平均持続期間は76日間という。参考までに、ウィーン医科大学はコロナ規制の心理的影響を調査したが、その結果、31%がなんらかのメンタルヘルスの問題を抱えているというのだ。「多くの人々はコビッド19で未来への見通し、方向性を失ってきている」と指摘している。

上記の後遺症は主に臓器、器官に現れた症状障害、違和感だ。例えば、ウイルス性の心筋炎などだ。それらは血液データや画像データで観察できる。一方、精神的、心理的な原因で症状が伴う場合だ。それもコロナ回復者だけではない。感染もしていない人にも見られるのだ。中国発、新型コロナが拡大して1年半が経過したが、長期のコロナ規制の中で精神的、心理的障害を抱える人々が出てきた。特に、若い世代に多いという。

アフガニスタンやイラクなど戦地から帰国した米兵士がその後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、日常生活が出来なくなり、家庭破壊、自殺などに直面するケースが報告され、米国の大きな社会問題となっている。

コロナ禍で同じような症状を呈する人々が出てきている。軽度な睡眠障害、倦怠感から、不安神経症、呼吸パニックなどまでさまざまな症状が観察されている。コロナ回復者の中には個室やICU(集中治療室)に長期間隔離されていたことから、回復後、突然不安に襲われ、パニック症状を発する人もいる。集中治療後症候群(PICS)と呼ばれている症状だ。また、慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる倦怠感が長期継続する症状も報告されている。

コロナ感染が拡大した直後、感染の危険度、重症化の危険は高齢者、基礎疾患を抱える人々とみてきた。ワクチン接種が始まっているが、その接種優先順序はハイリスクの人々から順に年齢別に分けられて施行されている。

しかし、現状は変わってきている。英国発のウイルス変異株は感染力が強く、感染者が若い世代に急増してきたことだ。長期化するコロナ禍で精神的、心理的ダメージを受ける世代は若い層に多いことだ。それも非社交的で閉鎖的な人より社交的で人付き合いのいい人のほうが、コロナ禍で大きな精神的ストレス下に置かれ、不安や失望感などの心理的症状が出てきているのだ。もともと社交的な人々は突然、対人関係、接触が制限されて隔離感、不安を覚える。新しい状況にどのように適合していいか分からないから、本人は苦しむわけだ。

コロナ禍が長期化することで、失業する人も増えてきた。家庭内問題や生活困窮などの状況下で自殺する人も増えている。臓器・器官の違和感といった外的に観察可能な症状ではないだけに、精神的、心理的ストレス下で苦しむ人の事情は外からはわかりにくい。そのため、対応が遅れることにもなる。

特に、スクールロックダウン(学校閉鎖)で長期間Eラーニングを強いられてきた若い世代への精神的ケアが急務となる。欧州の教育界では「コロナ世代」と呼ばれ、学校教育が十分受けられず、学力が低下する世代を意味する。問題は、学力だけではない。精神的・心理的ダメージを受けた世代だ。学校関係者、両親などが連携して、コロナ世代の若者たちへのケアが行われるべきだろう(「コロナ禍で精神的落ち込む若い世代」2021年2月3日参考)。

ワクチン接種が広がり、社会が集団免疫を実現するまでまだ時間がかかるだけに、ロング・コビッド症候群への社会の理解が求められてきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。