ワクチン接種を受けるべきか

池田 信夫

今月から本格的にワクチン接種が始まるので、受けるべきかどうか迷っている人も多いだろう。社会的にはワクチンで集団免疫が実現することが望ましいが、それが個人として合理的か(メリットがリスクより大きいか)どうかは自明ではない。マスコミではこの点を曖昧にしているので、ここでは統計データで最小限いえることを書いておこう。

次の図はワクチン接種率の高い上位10ヶ国(小国を除く)だが、接種率と死亡率には有意な相関がない。特にハンガリー・ブラジル・トルコ・インドでは、接種が増えた時期に死亡率が上がっている。これは偶然の一致とは思えない。これらの国々はワクチンの種類も違うので、その原因は不明だが、ワクチンの効果はつねにポジティブとは限らないのだ。

各国のコロナ死亡率(100万人あたり)

これを先進国とそれ以外にわけると、その効果が大きくわかれる。イギリスやイスラエルを初め、先進国では接種率が高く、死亡率を下げる効果も出ているが、途上国ではほとんど出ていないか、逆効果になっている。日本は接種率が途上国並みで、死亡率も低い。

ワクチン接種率と死亡率(FT.com)

上の2枚の図からいえるのは、先進国では長期的にはワクチンの効果は出るということだ。接種の初期に死者が増える現象はイギリスやイスラエルでも起こっており、これは接種で一時的に免疫力が弱まるためといわれるが、2ヶ月ぐらいで収まる。ワクチン接種が感染を起こすADE(抗体依存性感染増強)は確認されていない。

接種した人が変異株のスプレッダーになる可能性

ワクチン接種で感染が増える原因として考えられるのは、ワクチンを接種した人がウイルスを拡散するスプレッダーになる効果である。

ワクチンは感染を防ぐものではなく重症化を防ぐだけだから、もともとウイルスをもっていて発症しなかった人が、ワクチン接種で免疫ができたと思って他人と接触すると感染する。これはワクチンのきかない変異株が増えたとき起こりやすい。

日本でも変異株が増え、これが「第4波」の原因だといわれている。変異株は輸入感染によるものと思われるが、ワクチン接種で従来のウイルスが減り、変異株の繁殖が促進された可能性もある。

忽那賢志氏の資料より

医学的なメカニズムは不明だが、経験的にいえるのは、日本でもワクチン接種の初期には感染や重症化が増える可能性があるということだ。その最大の原因はスプレッダー効果だと思われるので、接種を受けた人はしばらくは他人との接触を控える必要がある。

もう一つ重要なのは、アジアに特有の「ファクターX」は、変異株には必ずしもきかないということだ。これは非特異的な弱い免疫機能だと思われるので、多くのウイルスを一挙に吸入すると突破されてしまう。

インドでは3月に行われたヒンドゥー教の祭が感染爆発のきっかけになったといわれるが、日本では人々が慎重に行動しているので、爆発は起こらない。マスクや手洗いで感染を防ぐ効果は疑わしいが、しないよりはましだろう。

結論としては、高齢者はワクチン接種を受けたほうがいいと思うが、感染率の低い日本では急ぐ必要はない。大事なのはその後の行動である。いろいろな変異株が入ってきている現状では、ワクチンは決定的な解決策ではない。接種後も慎重に行動する必要がある。

いうまでもなく私は感染症の専門家ではないので、行動は自己責任で。ご意見はアゴラサロンへどうぞ(5月中は無料)。