インフレがやってきた

カナダの物価が異様に高くなった気がします。コロナでの行動制限で人々が動ける範囲は限定されています。レストランも屋内営業はできません。ところがバンクーバーは一年で一番美しい5月から7月の時期に入り、人々の気持ちは浮足立ちがちです。公園に行けば人、人、人。(もちろん日本ほど人口がいないのでそれと比較されても困りますが。)ショッピングモールも大賑わいとなっています。昨年の今頃、私が経営する商業不動産のテナントさんたちから悲鳴が上がり、賃料の大幅割引をしたのがウソのようにそれぞれの店には人が溢れています。

CasPhotography/iStock

スーパーマーケットに行ってふと思ったのですが、全般的に価格がとても高くなりました。生鮮品はざっくり1-2割上がった感じがします。事実、カナダ統計局が発表した3月の消費者物価指数は前年同月比2.2%の上昇となりました。その中で1年前と比べ価格が上がったものはガソリン(35%)住宅(7.9%)ミルク(11.4%)、生鮮品(2.4%)と一様に上がっています。地元の新聞には自転車屋がインタビューで「昨年の今時、世の中から自転車が消えたと騒いだけど、今年はもっと足りず、その範囲はヘルメットなど付随商品にまで及んでいる」と報じています。確かに週末に自転車に乗れば自転車渋滞するほどスポーツバイクにサイクルウェアに身を包んだ人がさっそうと乗りこなしています。

この現象を私なりにわかりやすく言うと100の消費をすることが「義務付けられている」場合、旅行や飲食で使えないため、消費可能なところで無理してでも購入したり、いつもより一段高級なレベルの商品をゲットするということかと思います。では100の消費をしなければいいではないか、とも思いますが、アメリカ人を含め、北米の人は消費性向が高いうえ、パンデミックでそれが抑圧されているのでマインドコントロールが効かず「いくらでもいいから欲しい」と一部の業種では無謀なまでの状態になっているとみています。

カナダ中央銀行は既に金融引き締めについて2023年から22年に前倒しすると発表していますが、私は今年後半からあってもおかしくないとみています。

ではアメリカはどうでしょうか?バークシャーハザウェイ社が株主総会を開き、ウォーレン バフェット氏が登壇、様々なことに触れていますが、その中でアメリカ経済は過熱状態にあると指摘しています。低金利と政府支援策で経済が「超高速ギアモード」となり、予想以上のインフレが進行していると述べています。

また本日の日経の「NY特急便」では「物価上昇5%も 製造業、喜びきれぬ需要増」とあり、製造業や運送業の世界では異次元の状態といった趣旨の速報になっています。

ところがFRBのパウエル議長やイエレン財務長官はこのインフレは一過性のものと判断しています。私の見方はやや違います。

先ほどの100の消費をする際の例でいうと、市場にアクセス可能なものはコロナで現在、その7割に制限されているため3割の余剰資金があるように見え、人々は実質的にその3割の余剰分をプレミアム料金として払うことができるという考え方です。仮にアメリカが予定通り7月から正常化になったとします。すると制限のあった残り3割の業種に資金が一気に向かいます。そこには極端な話、7割の消費可能な資金分を用いてプレミアムを払うことができるのです。

つまり、パウエル議長やイエレン議長のいう一過性のインフレのように見えるけれど業種により波状的な物価高が訪れ、景気はヒートアップ、想定より前倒しで金利を上げざるを得なくなるとみています。後日、触れますが、アメリカの住宅ブームで北米や日本を含めあちこちで木材が足りない現象が起きています。この現象も多分これで説明がつくはずです。ただ、確実に言えることは消費可能金額は100であってそれが150になるわけではありません。もちろん、株成金などはいるでしょうけれど今の相場つきからは初心者があぶく銭を稼がせてくれるほどたやすい状況にはありません。よって上がり過ぎた物価は元に戻るとみるべきですが、それがいつなのか、という話かと思います。

では最後にこれが日本にも波及するか、ですが、どうも違うように見えます。それは100の消費可能金額があった人たちがコロナで消費マインドが減退し50になってしまったことが大きいと思います。一見、非常に賢明な消費者行動であるともいえますが、悪く言えば安い価格に慣れてしまい、それより高いと手が出なくなる巣籠ならぬ「縮こもり現象」にあるとみています。

ただ、その傾向が続けば日本は世界の物価から取り残されてしまい、大変なことになりかねません。先日も円相場の話を少ししましたが為替が国力を表すとすればもっと円安にしないと日本のチカラは世界に追い付かないという悲しい話になってしまうかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。