五輪のデカップリング

五輪をやるやらない、という議論は日本に留まらず世界のメディアを含め、各方面から聞こえてきます。朝日新聞に至っては社説で中止を訴えています。開催まで日程が迫ってきているのにはっきりしない状況が続きます。私はズバリ、やる、規模は縮小された形なるも結果としてはうまくいく、このように予想しています。

takemax/iStock

まず、五輪の開催の決定権はIOCにあること、そのIOCは直近の内部会議でも開催可否の議論はほとんどなく、どのようにすればうまく開催できるか、というスタンスにあり、開催反対派から見れば暴走列車のような状態にあります。

IOCはスポーツ界の「餅撒き」役であって彼らがバラまく各スポーツ団体への交付金がマイナーなスポーツを支えているともされます。そういう意味ではオリンピック競技に採択されるスポーツは餅がもらえることもあり、大会関係者はNOとは言いにくい立場にあるといえるでしょう。それゆえに巷にささやかれている中止の際の損害賠償問題が出てくるわけです。

今回のコロナ禍は地球儀ベースであり、仮に中止になった際、その契約書を盾に日本政府や東京都に損害賠償請求をすればIOCは世界の世論を敵に回すことになり、今後の五輪そのものの存在を揺るがしかねない事態になります。つまり、IOCの立場だけを考えれば引くに引けないし、日本政府や東京都から「やめる」ということは言わせたくないでしょう。

菅総理が頑なに開催すると言っているのも小池都知事がだんまりを決め込んでいるのもそのあたりが透けて見えているからで、日本主導で中止することは損害賠償より大きな問題を引き起こすことになるという恐れがあるとみています。

ではどうやって開催するのか、であります。デカップリングとは経済用語で本来緊密であるものを「切り離す」という意味でつかわれます。これを五輪に当てはめるのでしょう。選手団と海外関係者の合計94千人を一般の日本人と極力切り離す、であります。

まず、選手とコーチなどは大会までに接種を完了する予定です。接種を完了した人が再度感染にかかるケースも指摘されていますが、アメリカのCDCが発表したデータによると接種済み6600万人に対して5800人に再度感染が確認された、とあります。これを比率に直すと0.009%となります。選手団が11000人程度とすれば再感染する確率は計算上、1人に満たないのです。

94000人のうち、多くを占める大会関係者にあとどれだけ接種を進められるか、これが一つのキーで現在16000人分用意されているといわれますが、まず、これを増やすことが対策の一つとなりそうです。

二つ目に日本のボランティアの接種を優先して進めることは安心安全開催を謳う日本としてのアピールになるはずです。そもそも無観客になればボランティアの数は大幅に絞り込めるはずで最終的に何人になるかわかりませんが、その人たちへの優先接種は戦略的に考慮すべきでしょう。

ところで私はバンクーバー冬季五輪の時、IOCの本部が入っていたホテルに警察がチェックした特別通行証をもらって業務の関係で出入りしてました。五輪関係者は何処の施設でも厳重な警備で一般の人との接点はそもそも少ないものです。唯一、接点があったのは私が当時経営していたカフェがソチ冬季五輪の関係者の控え場所の近くだったのでその人たちのたまり場となり、スタッフや一般客との接点がありました。このような事態を極力少なくすることは対策の一つだと思います。

三つ目に日本の接種をとにかく早く進めることだと思います。菅総理が7月までに高齢者の接種を終えることにこだわっているのは五輪の開催日程も頭にあるからでしょう。ワクチンは十分に供給されるらしいので大会開催までに非高齢者は2度接種ではなく、北米方式のまずは1回接種を広く薄く行うというやり方もアリだと思います。(当地では2度目は120日後。1度目の接種率は65%を超えています。)

ではメディアから、なぜ東京五輪への反対の声があるのでしょうか?そもそも五輪への支持はいつも割れるのです。特に開催後の予算の膨張に開催都市の住民はあきれ返るのが世の常です。よって2-3割の人は五輪そのものにいつも反対であり、それに同調するメディアも当然あるのです。東京五輪も誘致前の日本人の支持率は2/3程度だったのです。朝日新聞は過去最大の赤字決算を計上し、引くに引けないぎりぎりの立場から政治的というか、メディアとしての注目を浴びたいがための破れかぶれの社説のようにも思えます。しかし、仮に開催されたら同紙はオリンピックをどう報道するのでしょうか?

もう一つはひねくれているかもしれませんが、北京冬季五輪が東京五輪開催後の半年あとに控える中、東京が中止となれば北京をボイコットする理由付けがしやすい、という発想はあると思います。海外メディアの腹の裏側は真っ黒のこともありますのでそのあたりは気を付けて読み込むことが必要です。日本のメディアの最近の低質化ぶりでとにかくネタ探しで走り回っているのでクオリティの低いニュース提供につながっている点は改善すべきでしょう。

緊急事態宣言が延長されているような都市での開催は大丈夫なのか、という意見もあるでしょう。しかし、ここバンクーバーを含むBC州も緊急事態宣言中ですが、数日前に発表された段階的緩和プランが適用されつつあります。つまり宣言と規制内容が一致していない点も考えるべきでしょう。

先々、「日本、頑張ったね」と言われるような良い大会が上手に開催されることを思っているのは少数意見かもしれません。しかし、開催の可否は宇宙で決まるような話で世論の声を聞く耳持たずだとすればぐずぐず言うよりベストを尽くす方が先決ではないかと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月28日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。