アメリカの各州は、コロナ対策の実験場である。おおむね民主党の知事の州(青)はロックダウンなどのきびしい規制を行ない、共和党の知事の州(赤)は規制が少ない。ロックダウンで死亡率は下がっただろうか?
図1 全米各州のコロナ死亡率(横軸)と失業の増加率
図1はコロナ死亡率(横軸)と失業の増加率の相関をみたもので、決定係数r2=0.044と、ほとんど相関がない。このうち右上の死亡率も失業率も高いのは、ロックダウンした州である。つまりロックダウンしても死者は減らず、経済も改善しない。岩田健太郎氏や立憲民主党などの「ロックダウンでゼロコロナにすれば経済が回る」という主張は、データで反証されたのだ。
「命か経済か」というトレードオフはない
その原因は、ロックダウンでゼロコロナにはならないからだ。図2は規制の強さ(オクスフォード大学の規制指数)とコロナ死亡率の関係だが、相関は弱い(r2=0.023)。ロックダウンしても死亡率は下がらないのだ。
他方、ロックダウンで経済が悪化する効果は大きい。図3のように規制の強い州では失業の増加率が高い(r2=0.32)。つまりロックダウンで死亡率は下がらないが失業率は上がる。
だから「命か経済か」というトレードオフはない。そういう関係があれば、図1は右下がりになるはずだが、ほぼランダムだ。他方、失業率を増やす相関は明らかである。ロックダウンで命は救えないが経済は悪化するのだ。これは多くの国でみられる現象だが、アメリカの結果はそれをほぼ同じ条件の管理された実験で確認した点に意義がある。
規制のゆるやかな共和党系の州は被害が少ない
個別にみると、主要な州の中でもっとも強いロックダウンを行ったニューヨーク州(NY)は、失業率も死亡率も最悪だ(図1)。同じく厳格なロックダウンをやったカリフォルニア(CA)の死亡率は中央値より低いが、失業率はNYと同じぐらい悪い。
ロックダウンした州は、NYの他にもニュージャージー(NJ)、マサチューセッツ(MA)、コネチカット(CT)など死亡率も失業率も悪い(図1)。東海岸はヨーロッパからの人口流入や黒人が多いなど不利な条件はあるが、NY州のクオモ知事を英雄扱いする理由はない。
他方、ロックダウンしなかったテキサス(TX)とフロリダ(FL)は、死亡率は中央値に近いが、失業率はTXが高くFLが低い(図1)。同じくロックダウンしなかったユタ(UT)、ミズーリ(MO)、ネブラスカ(NE)は、死亡率も失業率も低い。
全島でロックダウンしたハワイ(HI)の死亡率は最少だが、失業率は最悪だ(図1の左上)。マスクの着用も義務づけなかったサウスダコタ(SD)は、失業率は下がったが、死亡率は全米第10位だった(同じく右下)。これはスウェーデン型ともいえよう。
こうみると、民主党系の州と共和党系の州の差がはっきり出ている。民主党候補の得票率の高い州では規制が強く(r2=0.45)、これで失業率が上がる相関は強い(r2=0.309)が、図4のように死亡率は下がらない(r2=0.004)。
図4 民主党候補の得票率(横軸)とコロナ死亡率
日本は規制がゆるやかで被害も少なかったユタに近い。死亡率は全米平均の1/20程度で、最少だったハワイの1/3以下である。自民党政権は「共和党的」な政策をとり、それは今までのところ感染症対策としては成功を収めたのだ。
しかし日本の経済的な被害は大きい。失業率はそれほど上がっていないが、GDPは約5%下がり、財政赤字は70兆円増えた。結果としては、日本はサウスダコタぐらいで十分だった。菅政権がオリンピックを決行するつもりなら、世界標準にあわせて過剰規制をやめるべきだ。