相手の話を最後まで聞けない高齢者はITに疎くなる

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

昔から筆者が不思議に感じていたことがある。それは「なぜ、歳を取ると機器やITサービスを使うことが不得手になるのか?」ということだ。老化で小さい字が見えにくいとか、思ったように指先が動かせないというのは、亡くなった祖母から聞いていた。これは老化に伴う、生理的なもので不回避的な要素で納得感がある。

だが人によっては「飲み込みが悪くなる。新しいものが頭に入らない」と言ったりする。そしてこちらは理解できなかった。あらゆる機器は直感的なGUIに移行しており、今やPCやスマホは誰でも使えるユーザーフレンドリネスは高まったはずだ。そして歳を取るとITに疎くなる人が出る一方、70歳を超えてもあっという間に熟練する人もいる。その差をわける正体が何者か?疑問は深まるばかりだった。

kimberrywood/iStock

だが、筆者自身の高齢化を待たず、この謎は1つのツイートによって氷解されることになった。結論を先に言えば、高齢になってITが極度に苦手になってしまう理由は、「最後まで相手の話を聞けなくなる」からである。

グーグル・マップの使い方を理解できない祖母

先日、こちらのツイートが大きくバズって盛り上がっているのを発見した。

これを見た時、思わず「なるほど」と心の中で声が漏れ出てしまう思いであった。確かにそうだ。

筆者も会社員時代に、高齢の社員にPCソフトの使い方を指南した経験がある。その際、このツイートと同じくこちらのいった通りの操作をしないままに、「これ難しいな…。さすが黒ちゃん(筆者のこと)はITに強いね!」と返されたことを鮮明に覚えている。その時は笑って応じたが、内心では(なぜ言ったとおりに操作をしないのか?)と不思議で仕方がなかった。

自分が操作を理解していない自覚があるなら、しっかり相手の話を聞いて言われたとおりに操作を繰り返せば熟練していくだろう。だが、それをしない。勝手にあっちこっちクリックして、「難しい。できない」とつぶやいている。当時の光景を思い出すツイートだった。

加齢しても傾注する人、途中で話を聞けなくなる人

過去記事で「年を取ると話を最後まで聞けなくなる症状」にキク3つの治療法というものを執筆したことがある。お断りしておくと、これはあくまで傾向であり、世の中には歳をとって老人になってもしっかり傾聴の姿勢を持ち続ける人も存在する。

その人物を取り上げたい。筆者の奥さんの父親はとても聡明さを感じさせる人物で、70歳を超えてからもスマホを使いこなしている。アプリもビジネスチャットツールや、Gmail、Googleストリートビュー、QUICPayなどの使い方をあっという間に覚えていった。分からないことはしょっちゅうググって、ドンドン自己解決していく。彼からIT関連の質問を受けることがあるが、その際もこちらの話を途中で「はい、わかったわかった」などと無理やり切り上げることはせず、だまって最後まで話しを聞く。「なるほど。でも、なぜそうなるの?どういう仕組?」と動作する仕組みまで、貪欲に理解しようとする姿勢が見られるので驚かされる。

AIとの対話が求められる時代へ

件のバズツイートでは、次のように続けている。実に本質を突くコメントだ。対話が必要である対象は人には限らない。

現時点ですら、情報収集についてはAIドリブンな時代がすでに到来している。我々が意識しているか否かはさておき、現代人はGoogleやTwitter、Facebook、YouTubeなど米国IT巨大テックのプラットフォーマーのAIがもたらす、リコメンデーションを迎合している。こうしたサービスを効率的に活用するには、AIを使う側に回らなければいけない。

たとえば、ビジネスを仕掛ける側は、GoogleやYouTubeでブログ・動画を発信する際に「どういったAIのアルゴリズムなのか?相手が何を求めているのか?」を理解することで有利に戦える。また、情報収集で検索をする際も、検索結果がどのようなアルゴリズムで表示されているのかを理解することで、収集プロセスも変わっていくだろう。これを「検索力」と評する人もいる。いずれにせよ、ITサービスのAIが何を求めているのか?という深い対話が必要ということだ。

歳を取るごとで相手が人間でもAIでも、対話ができなくなってしまう人がいる。そしてそれは時代の変化に取り残されてしまうリスクが高まる。「相手の話が聞けなくなる」というのは、老化することで生理的に衰える以上に恐ろしいことだ。「相手の話をちゃんと聞く」というのは、意識や知識でいかようにもなる、あくまでコントローラブルなファクターだと考えている。自分が将来、ITが苦手な高齢者にならぬよう改めて気をつけたいと感じたツイートだった。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。