(モンテカルロシミュレーションで検証 連載36)
日本でもワクチン接種が感染抑制に効果があることが、データとして明確になってきました。図1は、新規陽性者の年代別分布をワクチン接種以前の昨年12月と現在とで比較したものです(*)。
横軸が年代別の世代です。例えば30と40の間の棒が30代の陽性者数です。縦軸は各世代の全体に占める割合を%で示しています。赤棒の分布がワクチン接種以前の昨年12月の1ヶ月平均の分布、青棒が今年の6月2日から9日の1週間の平均の分布です。ワクチン接種は65歳以上の高齢者から行われましたから、その結果、現在の分布は接種前に比べて50代以上の陽性者の割合が減り、20代以下の割合が相対的に増加しています。
現在、65歳以上の接種率は高齢者の27.3%(1回接種)これは全人口の約8%、医療従事者の接種率は全人口の約4%(1回接種)です。接種の世代分布が一様でないので、図1のようにワクチンの効果が感染者の年代分布の変化に定量的に表れ始めています。現在急速にワクチン接種が進んでいますから、この図も今後変化してきています。
次に、図1の元になったイギリスの例を示します。図2は、イングランドの小都市Black burnの感染者の年代別分布図です。WSJの記者Mike Bird氏がまとめたもので、データは、イギリスのUK Covid dashboard’s download sectionからのものだそうです。
図2でも同様に、赤棒が昨年12月の分布、青棒が現在の分布です。イギリスはワクチン接種が進んでいて、全体の接種率は60.9%(1回接種)、65歳以上では95%です。従って、50歳以上の陽性者はワクチンによって非常に抑えられていて、その分が20歳以下の層に移行しています。全体の40%が20歳以下のという驚くべきデータです。
イギリスでは、全体として陽性者数は大きく減衰し、死亡者は非常に少なくなっていますが、現在、図3のように小さな感染の拡大が起こっています。イギリス政府は、ワクチンの1回目の接種の徹底、特に若年層への接種と2回目の推進を要請しています。この感染拡大はインド株が原因と言われていますが、それに加えて、もうひとつの要因として、ワクチン接種の抜け、即ち、若年層を通した感染拡大が言われています。
図2に示されているように、感染の40%が若年層に担われている訳ですから、ここがちょうどコンピュータウイルス防御で言うと、セキュリティーホールに該当します。ある特定の世代だけワクチン接種が行われていないと、その世代が変異株の感染拡大のセキュリティーホールになります。
もうひとつ大事なことは、変異確率は、感染回数(世代交代数)に比例します。図2は、ワクチン接種を行っていない若年層が感染の半数を担っているということですから、今後の変異は若者の中で多く起こり、若年層に特化した、若年層でより広がる株「若者株」が生き残ることになります。その時、若者が重篤化する変異の可能性が出てきます。
現在、若年層はコロナウイルスに対して重篤化する確率も小さく、死亡する確率も非常に小さいのですが、若年層だけがワクチン接種を行わなければ、その状況は刻々と変わります。
若者がワクチンを打つ、打たないことのリスク評価をする場合、これまでワクチンのなかった1年間と状況は同じではありません。ウイルスが特化して若者をターゲットにしてゆく可能性を考えれば、一斉にワクチンを接種して全体の感染確率を下げ、コピーの回数を減らし、変異株の発生を抑止する方が有効だと考えられます。
(*)この比較のアイデアは、burvery氏のツイッターで紹介された英国人のWSJの記者Mike Bird氏のツイッターで示された図2です。
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