日本は企業も政府も物価を抑えようと必死に努力しています。主婦らの「高いわー」の声は販売シーンで総スカンを食う可能性があるし、価格ドットコムのような同一商品で安値を競わせるような仕組みも存在します。アマゾンに商品を納入する側も提示価格が重視されます。企業の目線からすると決算対策のみならず四半期や月々の売り上げ目標に達成するために必死の努力で、期限末期になると多少値引きしてもよいから受注せよ、という事態もしばしば出てきます。
企業のポジションは利益ではなく、売り上げ第一主義的なところは今でもあります。以前、日本全国規模のある企業団体の名簿を見ていたところ、各々の企業の紹介欄に「年間売上高」が目立つところに記載されているのです。「ほう、おたくは(売り上げが)10億ですか?」「うちはまだまだ3億ぐらいなのでひよこです」などという会話を交わすのでしょうか?
日経ビジネスにも毎週、新興企業を紹介する欄があるのですが、数年間の売り上げ推移が記載されており、売り上げの伸びを成長判断のひとつにしているようです。確かに一つの成長尺度ではありますが、そこに併記されている従業員数と業種からこの会社は赤字、ここはすれすれぐらいかな、ぐらいの想像ができます。大儲けしていそうな企業は滅多にないのですが、なぜそういう企業を取り上げないのか、不思議なのです。
これを書くとまた同じことをと言われるのですが、日本では「儲かっている」はタブーに近いものがあります。関西で「儲かってまっか?」「ぼちぼちでんなぁ(=かなり笑いが止まらない)」のやり取りをみても利益が出ていることを意図的に伏せることで他の方々(=儲かっていない方)と同化して出る杭にならないようにしています。もちろん税務対策もあるかもしれません。カトパンが結婚されるお相手も売り上げ2000億円のスーパーマーケットの御曹司とは書かれていますが、どれだけ儲かっているかは書かれませんよね。つまり日本では売り上げは膨らませた方が見栄えが良いともいえるのです。
私が以前、菅総理が官房長官時代から必死で携帯電話の料金を下げることに情熱を捧げた点について懐疑的でありました。私は携帯電話の料金を下げさせるのではなく、所得を増やして携帯料金の負担が重くならないようにするのが本筋だと考えています。うがった見方ですが、菅総理のブレーンが「そうすれば高齢者から支持が増えますよ」ぐらいささやかれたのだろうと今でも思います。高齢者の方はこうおっしゃるでしょう。我々はもう働いてなくて年金暮しなのだから安いに越したことはない、と。
あるいは「お前は社長で収入があるからだ」とも言われそうです。しかし、私の周りの若い方や普通の方々は私以上に消費しています。そしてもっと欲しい、もっと収入が欲しい、だからもっと待遇条件の良いところに移るという発想です。
北米では投資という観点が非常に発達していますし、長期的な視野でリターンを得やすい仕組みがあります。不動産でも株式でもなぜ上がるのかと言えば物価が上がっていること、移民を通じて人が増えていること、人々がフェアな価格を払うことにためらわないこと、企業投資が継続的で拡大していること…の結果です。とすれば、理論的には貯蓄や資産額の絶対額が多い高齢者は本来であれば投資を通じて不労所得が入ってきやすいものなのです。
ロバートキヨサキの「金持ち父さん、貧乏父さん」という本がかつてありましたが、日本で「金持ち爺さん、貧乏爺さん」という本を出したらきっと売れるかもしれません。が、そこに至るには社会全体の物価に対する思想やスタンス、更には年金制度まで変えなくてはならないでしょう。
日経に「世界一律価格、日本に押し寄せる ネトフリ13%値上げ 安いニッポン・ガラパゴスの転機」とあります。ネットフリックスが世界価格の見直しで世界標準より低い日本の価格を13%引き上げるとしています。記事にはもちろん、「高い!」というネガな声が入っています。アマゾンのプライム会員はアメリカや英国の1万2-3千円に対して日本は4900円だと指摘しています。海外大手がそれでも日本は人口が多いから特別価格を組んでくれていましたが、人口減、高齢化社会、消費する力の減退がさらに進めば海外企業は「日本人は妥当価格を払わないから進出しない」という決定を下すでしょう。
ウッドショックで日本で木材価格が高騰し、確保に苦労しているとされます。北米の木材先物相場は3月のピークからちょうど半値をつけました。それでも日本に木材が入らないとすればそれは日本が買い負けしているのです。商社は建築会社などからの「高品質低価格」への圧力が強く高い価格では買い付けられないのです。結果として木材は日本には廻ってこないということです。
私は日本でちょうど一件、新築の契約をするところなのですが、北米と比して恐ろしく安いのです。しかもウッドショックだけど価格上昇分は工夫して吸収します、と。偉いな、と思います。しかし、それだけ顧客向け価格にセンシティブだということなのでしょう。私もそのあたりを思い、今回は先方の言い値で了解しています。
欧米と比してあまりにも物価の差がついたと思います。が、その差は意外と韓国とも逆転しつつあります。当地のアジア食品のスーパーに行くと日本と韓国の同様商品が並んでいるのですが、10年ぐらい前までは明らかに韓国製は安かったのですが、この数年は逆転して日本製の方が安いケースも増えています。中国製もずいぶん価格上昇し、変な話ですが、日本製の買い得感が非常に高まっているのです。
日経の記事は日本をガラパゴスと称していますが、私からすればそれどころか月世界ではないかと思います。記事のコメントに「スーツ姿のホワイトカラーが3ドルそこそこの牛丼や立ち食い蕎麦でランチを済すようなことは新興国ですらも都市部ではだいぶ少なくなりました」とあります。本当にそうなんです。
コロナで海外旅行に2年ぐらい皆さん行けていないと思いますが、コロナ明けに海外に行ったらびっくりするでしょう、その物価ギャップはもう取り戻せないぐらいになっている気がします。何だったら中国の工場を日本に持ってくる方がよっぽど安くて安全になるのではないかという気がします。「世界の工場、ニッポン」です。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月23日の記事より転載させていただきました。