スマホ時代にこそ輝く、漢字検定の知られざる真の価値

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

「漢字検定(以下、漢検)」と聞くと、あなたはどのような印象を受けるだろうか?

「漢字は書けなくても読めれば務まる。スマホ時代には無用の長物」
「中学生や高校生がやるもので、大人が時間を割いてやるものではない」
「漢検は資格としては無価値、転職・就職で役に立たない」

おそらく、そういったネガティブな答えが返ってきそうだ。だが、筆者は漢検の価値は単に見過ごされているだけで、非常に価値が高い試験だと思っている。ぜひ、すでに大人になった社会人にこそ、漢検を勉強してもらいたいと思っている。

筆者が曲がりなりにもジャーナリストとして、ネットのメディアやビジネス雑誌、たまにテレビ出演や講演のオファーを貰って、自分の意見を発信する立場として仕事をさせてもらうことができているのは、この「漢検」のおかげだと思っている。もちろん、本稿で投下された表現や語彙は、昔学んだ漢検の知識がその源泉となっていることは言うまでもない。

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今回はスマホ時代の現代こそ、漢検の知られざる価値をシェアしたいと思い、筆を執ることにした。

<参考>こちらの過去記事国語力が向上する真の勉強法とは?も参考にされたい。

漢検の簡単な紹介

漢検をよく知らない方のために書いておくと、この資格を通じて学ぶ内容は「漢字の読み・書き」だけに留まらない。「四字熟語」や「ことわざ」なども学べるようになっている。

また、漢検は10級から1級まで難易度分けがされている。筆者が勉強したのは「2級」だけなのだが、社会人はこの級を勉強をするだけで良いだろう。必要なのは勉強をして知識をつけるだけでよいため、わざわざ試験を受けに行く手間をかける必要もないと思っている。つまり、学習に必要なコストは、対策本を買うだけだ。

漢検の素晴らしい部分、それは日常生活ではあまり触れられない、たくさんの語彙や表現を学べる点にある。2級には「漸次回復する」「刹那主義的な生き方」「粉骨砕身努力する」などの言葉を得ることができる。これらの言葉を理解でき、また適切に使いこなすことができる価値は、決して小さくない。

語彙力が高まると世界を見る解像度が高まる

筆者は大学時代、「語彙力を高めたい」と感じ、漢字検定の問題集を買ってスキマ時間に自主学習をした。日々、知らなかった言葉をたくさん覚えていくプロセスは非常に楽しく、忙しい日々の中で夢中になって勉強した。対策本の全課程をあらかた網羅したところで、程なく2つの大きな変化がやってきたのである。

まず1つ目は世界を見る際に、ぼやけて見えていた映像の解像度が高まったと感じたのだ。漢検の勉強をして知識をつけると「言葉」に敏感になる。町中にはこれまではまったく気にもとめなかった、たくさんの言葉で溢れかえっており、その1つ1つに意識が向くようになったのだ。「この本屋のポップ、言い回しがものすごく上手で心をくすぐるセンスを感じる」と思ったり、「この注意書きのフレーズのこの部分、明らかな誤用だな」という具合である。

そしてもう1つは文章力の向上だ。せっかく覚えた語彙力を活用したくなり、当時流行っていたmixi日記を書くようになった。今読み返すととても不特定多数の人に出せるシロモノではなく、噴飯ものの日記ばかり書いていた。しかし、日記を読んだ友人からは「読ませる文章を書くよね」とか「難しい言葉をよく知っているな」と驚かされた記憶がある。さらに、日記を書く過程で、意識的に漢検で覚えたばかりの言葉を使うようにしたことで、「知っている」が「使える」に昇華していく感覚を得た。眠っていた知識が、使うことで生き生きと呼吸を始めるのである。

語彙力が高まるとぼやけて見えていた世界が、まるで4K映像のように高解像度に高められる。人間社会は言葉で構成されており、その言葉に接する意識が大きく変化するからだ。

人生の生きやすさと語彙力の関係性

同じ内容を言うのでも、使う言葉で受け取る相手の印象は大きく異なる。

たとえば、この画像の赤ワインを見て、「赤くておいしそうなワインだ」というのと、「熟成された赤レンガ色と、クラシックな深みのあるえんじ色のブレンドカラーのおいしそうなワインだ」というのとでは、聞いている相手の印象は違って来るだろう。また、「時間が過ぎる」と「星霜を重ねる」でも、同じ意味でも違った印象を受けるはずだ。お断りしておくと、筆者は「なるべく難しい言葉を使って知識マウントを取れ」などと稚拙なことを言うつもりはない。だが、より適切な言葉を使う力はあって困ることはないと思っている。

また、語彙力は人生の生きやすさとも密接に関係している。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏は、「語彙力が低いとコミュニケーショントラブルを招きやすい」といっている。自分のイライラした感情を言語化して、誰かに聞いてもらえば問題解決につながったりスッキリする。ところが、それをするための語彙力がなければ、「あいつムカつく」など強い言葉で大ざっぱにしか表現できず、結果として共感を得られないわけだ。語彙力は人生のQOLまで関係してしまう、重要なファクターなのである。

語彙力があれば違う階層の住人と交流ができる

さらに忌憚のない意見を言わせてもらえば、筆者は語彙力を高めることで自分が住む階層と違う住人との交流ができると思っている。

「階層」などというと「人間のレベルを上下と見下すのか!?」と怒り出す人がいるかもしれない。その意図はないが、実際に世の中は知識で階層わけされていると思っている。筆者は派遣スタッフをやっていた時期は、周囲の人間は高卒がほとんどだった。その後、大手の外資系企業へいくと国内外の難関大学卒やMBAホルダー、博士号取得者ばかりで、知る限り本社に高卒は一人もいなかった。交わされる会話のレベルや、使われる語彙や表現にはかなりの違いがあるだろう。言うまでもなく、どちらが上、下と見下すつもりは毛頭ないが、人間は同じ属性で固まりやすい本質が事実としてあるのは否定できない、

同じ階層の住人とは、多少言葉がや表現が稚拙でも通じる。同じバックグラウンドを共有しており、理解共通性の高さが言葉の不足を補ってくれるからだ。しかし、自分が今いる階層の上に住んでいる住人とは、語彙力を尽くしてコミュニケーションを図る必要がある。自分が見ている風景と、相手が見ている風景との間には大きな隔たりがある。漢検の勉強を経て言葉を磨くことができれば、異なる価値観や文化を持つ相手とも深い交流が実現できる。これは大きな価値だ。

「スマホ時代に漢検なんていらない」と思っている人がいるなら、それはまったくの逆こそ真なりと主張したい。ズバリ、SNSなどネットメディア全盛期で様々な人と交流しやすい世の中だからこそ、言葉を磨く必要性があるのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。