日本で充実させたい予防的措置という考え方

予防的措置、何それ?難しそう?、そう思わないでください。実はとても簡単なことなのですが、割と日本ではない考え方です。そしてそれは日々のライフから会社の経営に至るまで必要なアプローチです。今日はそこを探っていきたいと思います。

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当地で支援している高齢者向け「脳の学習教室」のNPO活動、日本でいう、脳トレにおいて参加者との意見交換で驚いたコメントがありました。「これって認知症になった人のためのクラスよね」。違います!脳トレや脳を刺激する学習は認知症になりにくくするための予防をするための学習です。

基本的に認知症や物忘れがひどくならないようにする、あるいは5人に一人が何らかの認知症にかかるといわれる中、その症状が出るのをなるべく先送りする、そんな活動が脳トレなのです。

日本の役所は典型的前例主義。何か、新しいことをお願いしても「そうはいっても、過去に例がなければどうやって説明するんですか?役所は予想では動けないんですよ」。言わんとしていることはわかります。ましてや予算をつけるといったお金が絡むことがうまくいかなければ「(税金を)無駄にした」と横やりが入る可能性は大いにあります。ましてや「責任を取る」という思想がほぼない役人の世界において新事案を積極的に捉えることすら難しいのに「起こるかもしれない」といわれ予防的措置を取るのは至難の業でしょう。

たとえば火山が爆発するかも、地震がくるかも、といった巨大な規模の予防的措置もありますが、インフラの老朽化で事故が起きたことはずいぶんあります。熱海の土石流事故も事故当時、非難指示が出ていなかったのは「空振りが怖い」が理由でした。事故が起きてまずいと思い、緊急点検を必死にやるというのが日本のお決まりなのです。これが予防的措置という考え方です。

マンションの管理組合ほど予防的措置への支出が難しいところもないでしょう。「このまま放置すれば鉄筋が錆びて危険になる」「この水漏れで建物の材木を腐食させ、強度が落ちる」といった問題は日常茶飯事です。しかし予算がないなどの理由で問題の本質の追及を先送りしていることは多いのではないでしょうか?アメリカのフロリダでマンションが崩落して未だに事件の全容がわかりませんが、管理組合運営は洋の東西を問わず、予算をつけて予防措置を講じるのは極めて難しい問題であることを見せつけました。

どのケースも「起きていないこと」に対して何か、準備することに特に日本人は慣れていないのだろうと思います。もちろん、起こりうるかどうか、そんなことは誰もわかりませんが、内容によっては予想はつくわけで強靭化計画は可能なのです。

我々が健康に気を付けるのはなぜでしょうか?人間ドックや健康診断を受けるのは予防的措置です。それは自分のことなので気を付けることが各方面で啓蒙され、この2-30年で当たり前の行為になった成功例とも言えます。

予防的措置というには基本的に科学的根拠と経験則から「起こりうるべく確率」がある程度見込める事象に対してそうならないようすることです。冒頭の認知症も2割の確率でなる、と言われる中、最近、物忘れがあると感じ始めたら脳を活性化させることは仮に初期認知症でも単なる老化による物忘れであってもぜひともその予防的措置に踏み込む勇気が大事だと思うのです。

今まで大丈夫だったから今やらなくても大丈夫、と思いたくなります。ではなぜ、皆さんは保険を買うのでしょうか?自動車保険は強制だから?では家の損害保険や火災保険は?生命保険は?…全て何かあった時という考え方なのです。保険代がもったいないから火災保険に入らないという人は確かに結構多いのですが、それは日本においてライアビリティという発想がないからでしょう。例えば火災保険でも隣家に延焼させたとしても相手の家の損害を補償することはありません。一方、海外ではサブロゲーションといって出火元が全責任を負う仕組みになっています。

日本はある意味、その日暮らし的な発想がみられるときもあります。しかし、現代社会は複雑になり、個々人の生活から社会活動までそんな悠長な時代ではないということは肝に銘じ、自分の周りで起きそうなこと、それを阻止するにはどうするか見渡してもらうと案外5つや6つぐらいすぐに出てくると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月4日の記事より転載させていただきました。