外電によると、カナダでは50度を超える気温の日々が続き、至るところで山火事が発生しているという。アルプスの小国オーストリアでも6日、36度を超える真夏の気温だ。ここしばらくこの気温が続くという。幸い、湿気はすくないので、昼には部屋のカーテンをして窓を閉めておくと、暑い風が部屋に入らないので、クーラーや扇風機がなくても生活できる。オーストリアでは自宅でクーラーを設置している家はほとんどない。ここ数年、暑い夏が続いたこともあって、扇風機を買う国民は増えた。当方は数年前に扇風機を買ったが、それまではクーラーはもちろんのこと扇風機なしでも夏シーズを過ごしてきた。
さて、カーテンを閉めて暑さが部屋に入ってこないようにしてから仕事にとりかかった。時事通信のサイトを開けるとなんと「ウィーン発」の記事が掲載されていた。オーストリア南部グラーツ市に住む住人が5日、トイレで便器に座ったところ性器周辺に痛みがきた。隣人が飼っていたニシキヘビが住人のトイレに出現し、便器に座った時、性器を噛んだのだ。
オーストリアでは夜のニュース番組で被害にあった住人の生々しい証言を報じていたので当方も知っていたが、時事通信がこの出来事を報じたロイター電を訳して配信したことを知って驚いた。「ウィーン発」で書けるテーマと言えば国際原子力機関(IAEA)関連のイランや北朝鮮の核問題以外はほとんどない中、「ニシキヘビ騒動」の記事が読者アクセスリストで上位を走っていたのだ。
昔、オーストリア連邦議会選挙の結果が日本のメディアでは報道されなかったことがある。オーストリアの内政には日本の読者は関心がないことは知っていた。配信される「ウィーン発信」のロイターや時事の記事は一部の音楽関連とIAEA関連の記事だけだ。冷戦時代、日本の大手メディアはウィーンに特派員を常駐させていたが、今はその数は少なくなってきた。時事通信も久しく特派員を帰国させ、ウィーンや西バルカン関連の記事はベルリンでフォローしている。
そのような中で、久しぶりにオーストリア国内で生じた「ニシキヘビ騒動」が日本で報じられたわけだ。状況が状況であり、ニシキヘビが突然、便器から顔を出せば、驚くだろう。「人が犬を噛んだ」ような状況に読者も驚き、好奇心を呼び起こす出来事だ。それを訳して日本に配信した時事通信記者もいい記者センスの持ち主だ。読者が何に関心があるかを冷静に判断しているわけだ。クルツ首相の記者会見には関心を示さない日本のメディアも「ニシキヘビ騒動」は即配信したわけだ。
思い出したが、昨年、ウィーン発でおならをした青年が罰金を科せられたという話が日本でも報じられた。「おなら青年」の記事は世界に配信された。その結果、おならをして罰金刑を科せられた青年は一躍、有名人となった。
読者のために事件を再現する。昨年6月5日の夜中、M君は友達とウイーン8区の公園のベンチでビールを飲んでいたところ、夜回りの警官が質問をしてきた。協力的でないだけでなく、挑発的な態度の彼に、身分証明書の提示を要求した。ところが、M君は突然立ち上がって警官をにらむと、警官に向かってわざと思いっきりガスを一発放った。侮辱と態度の悪さに警官も気分を悪くした。公共の規律に触れたのか、500ユーロの罰金が科せられたのだ。
ウィーン発「おなら青年」事件が伝わると、アメリカのニューズウィーク、イギリスBBC、ガーディアンをはじめカナダのCBC、アイルランドなど、世界中のメディアが一斉に報じた。青年はウイーン大学の学生だ。
蛇足だが、「ウィーン発」ではないが、最近笑った出来事を報じた記事を紹介する。駐韓ベルギー大使の夫人(63)がまた騒動を起こしたのだ。今回はソウル市龍山区の清掃員と揉み合いになった。今回も大使夫人は清掃員に平手打ちをくらわした。清掃員の箒が大使夫人の体に触れたというのが騒動の発端だ。口論の末、清掃員が夫人を地面に倒した。警察が駆け付けて、夫人がベルギー大使夫人であることが分かって、事を荒立てないために双方を和解させて出来事は一応、解決した。
大使夫人は中国人女性だ。夫人は先日も買物中、店員に万引きした疑いをかけられたことに激怒し、謝罪する店員の顔を平手打ちしている。同出来事は韓国メディアでも結構大きく報道された。ベルギー大使館は夫人の言動を謝罪して一応解決した。ちなみに、駐韓ベルギー大使は今夏、任期を終えてベルギーに帰国する予定という。参考までに、大使夫人は1958年生まれの中国出身で、大使とは中国で知り合った。主人が2018年に駐韓大使に任命されたので、夫とともにソウルに住んでいた。
「ニシキヘビ騒動」、「おなら青年」、そして「大使夫人平手打ち劇」も、それを報じる記事へのアクセスは政府首脳たちの会見や記者会見よりもはるかに多い。読者はこの種の出来事、騒動を報じる記事を読みながら、一緒になって怒ったり、笑ったり、ハラハラしているわけだ。
ところで、当方は毎日、日本の読者の関心が少ないテーマを意図的に選んでコラムを書いているわけではない。住んでいるところがウィーンだから、ウィーンを拠点にテーマを探さざるを得ない事情がある。これは当方の嘆き節ではない。現実だ。「ニシキヘビ騒動」や「おなら青年」事件はめったに起きるものではない
ここしばらく暑い日々が続く。コロナ禍で困難な状況で生活している読者も少なくないだろう。それらの読者の心を解し、喜びと笑いを提供するコラムを書きたいものだ。ニシキヘビには負けないぞ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。