日経のこの記事には驚きました。「『AI俳優』もろ刃の人気 動画制作費9割減、倫理に課題も」。
仮想俳優がビジネスシーンで使われるようになったというのです。記事には一例としてニュースを読み上げるアナウンサーらしき人が出ているのですが、その人がAI人間だというのです。極めて精巧、というか普通ではまず気がつかないと思います。瞬きや目線がおかしい気がするのと頬の筋肉などに不自然感がなくはないですが、それは答えを知ってみているからでしょう。
私はYouTubeに上がってくる日本のニュース番組をよく見るのですが、ニュース番組は読み上げだけのものも多くなっています。ネットニュースのアナウンサーは無表情で間違いなく読むことに集中しているのか、抑揚もあまりありません。もちろん誰かとやり取りすることもありません。よってAIアナウンサーであっても構わないと思っています。
2007年に登場した「初音ミク」にみられるボーカロイドは音声合成という手法で独特の声というか音で歌を歌い、現在では50万曲以上あります。更に3Dの画像技術を使い、ライブを行い、一部の人達に圧倒的支持があります。もちろん、そこにはリアルの人はいません。私も興味があり一時期はボーカロイドの音源なども購入していたのですが、独特の歌い方に違和感は強く感じています。そのボーカロイドのような音声読み上げソフトも出てきているし、たぶん、普通にユーチューブを見ていて気が付かない本物そっくりの読み上げソフトも多くなってきているのだと思います。
日本では十分に普及していないとされるオーディオブックやポッドキャストは通勤時間や歩いている時でも書籍などを読み上げてくれたり、自分が深掘りしたい内容を音声を通じて提供してくれます。これもそのうち、合成音声にとってかわられるかもしれません。FMラジオ局も完全AI配信があってもおかしくないでしょう。ただ、合成音声は抑揚が不自然であるため、小説などの読み上げでは感情が出ないため、リアルの朗読とは明瞭な差があります。ただ、これもどこかでキャッチアップされるのだろうという気がしています。
私が日経の記事を読んで恐ろしいと思ったのは人間がAIと普通にやり取りする時代が裾野からじわりと浸透しつつある点です。スマホやスマートスピーカーでの音声でのやり取りも合成音声ですし、問い合わせの電話をかけると合成音声での案内が聞こえてきたりします。日本では自動販売機はよくしゃべりますし、駐車場のチケットマシーンなど指示をしてくれるものもあります。
とすればテレビのアナウンサーは読み上げ能力ではなく、取材能力と対話能力がより求められる時代がやってくるということでしょうか?どのアナウンサーもおなじようなメイクで同じような顔つきではなく、もっとバラエティ感ある布陣にした方が面白いと思います。多分、20年代後半にはAIドラマやAI同士の討論会があり、それを我々リアルの人間が真剣に見ることもあるのかもしれず、それこそリアル対AIコメンテーターの戦いとなりかねません。
とすればこれは明らかな人間と機械の共生でもあります。今までは選択的にそれを選ぶことができました。「機械なんて味気ない」、これが欧米の長年の考え方で良いサービスほどリアルの人間が対応し、人間のどんな我儘でも聞いてくれる良き時代でありました。クレーマーに対しても生身の人間だからこそ程よいクッションがあったともいえるのですが、機械相手では怒りをぶつけることはできません。
事実、誰もアマゾンや楽天でショッピングする際、「もっとまけろ!」とは言いません。1円単位できちっと払います。
となれば人間の基本行動にどんな変化が起きるのでしょうか?私は人間が機械に同化し、無感情になっていくような気がします。例えば日本ではどうか知りませんが、当地では多くの飲食店が持ち帰り用の専用ウェブサイトがあり、その画面から欲しい商品をカートに入れ、精算すればあとは指定時間に取りに行くだけです。(もちろん配達もあります。)極めて便利なのですが、メニューを見る楽しみが一つもなくなり、いつも同じものしか注文していないことに気が付いたのです。何故かと言えば「この店、〇〇がおいしいんだって」といった情報もなく、店の人からアップセール(売り込み)もないのです。そういえば、昔、蕎麦屋の出前を取るとき「何にする」といわれ、常にかつ丼を注文していたのと同じです。悪く言えば「パブロフの犬」状態で条件反射で何も考えていないのです。
ここまで考えると「人間ってどうなっちゃうんだろうね」とつぶやかずにはいられないかもしれません。人間らしい生活、人間らしいコミュニケーション、人間らしい仕事…が見直されて「寄合い」が復活したりするのでしょうか?
2020年代はそういう意味では人間にとっての激動の時代になるのでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月8日の記事より転載させていただきました。