最初は西村康稔経済再生相(コロナ担当)の失言と思われていた飲食店に圧力をかける行政指導は、内閣官房コロナ対策室長から金融庁・財務省・経産省に出された「事務連絡」によるものであることが明らかになった。山尾議員の問い合わせに対して、内閣官房は
- この要請に法的根拠はありません。
- 要請に応じなくても免許・税制含め一切の不利益はありません。
- 可能な範囲で協力できればしてください。
と答えたという。内閣が行政指導に「法的根拠がない」と認め、それを廃止するのは、きわめて異例である。それも金融庁・財務省・経産省と協議の上で出したというのだから、政府ぐるみで飲食店に圧力をかけようとしたわけだ。
「抜け駆けを許すな」という圧力団体の陳情
ところが7月9日の西村大臣の記者会見の口ぶりでは、それほどおかしなことをやっているという意識がない。日常的にやっているからだろう。普通はこういう法的根拠のない行政指導は、口頭で行われる。官僚は行政訴訟で追及されると勝てないことを知っているからだ。
しかし今回は、内閣官房が関係省庁と協議した上で文書を出している。これは役所だけの決定とは思えない。この背景には「抜け駆けを許すと正直者がバカを見る」という多くの圧力団体からの陳情があった。
総選挙を前にして、自民党の族議員としては「言うことを聞かない店を取り締まっている」というアリバイを関係業界に見せたかったのだろう。これは官僚の暴走ではなく、自民党の動きがあったと思われる。
法的根拠のない行政指導は憲法違反
現在の特措法では、都道府県知事の要請もしくは命令に違反した飲食店に対する罰則は「過料」までしかない。これは通常の行政処分とは違って裁判所の決定が必要なので、今まで東京都は4店に各25万円の過料を科しただけだ。
もっと手っ取り早く、銀行から圧力をかけさせようと考えるのは自然である。特に今は飲食店の資金繰りが苦しいので、銀行が飲食店に「役所に聞いたんですが、遅くまで酒を出しているのはまずいんじゃないですか」というだけで、効果はてきめんだろう。
だがここは中国ではないのだ。「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」(憲法31条)。これが法の支配という憲法の根本原則である。
日本人は行政指導が正しいと思ったら、法的根拠がなくても従う。今回は飲食店をスケープゴートにする規制に正当性がなく、まともに補償金も出ないから、違反する店が増えるのだ。内閣が考え直すべきなのは、この程度の被害でここまで飲食店を規制する必要があるのかという費用対効果の問題である。
12日の東京都の新規陽性者数は502人。10万人あたり3.5人で、イギリスの47.3人をはるかに下回るが、英ジョンソン首相はロックダウンをやめる方針を表明した。オリンピックという特殊事情があるとはいえ、いつまでこんな異常な規制を続けるのか。違法な行政指導をした西村大臣を更迭し、コロナ対策室の体制を一新すべきだ。