河村氏の金メダルを噛む事件がこれほど大炎上した理由

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

日本のみならず、世界中が注目している東京五輪。活躍するアスリートたちが、コロナ禍の闇を追い払うように日本中を明るい光で照らす中、名古屋市役所の河村氏が訪問した後藤選手のメダルを噛むパフォーマンスが問題行動として話題を呼んでいる。この事件は瞬く間に大炎上し、河村氏は「愛情表現のつもりだった。迷惑をかけたならごめんなさい」とのコメントが不適切であると火に油を注ぐ結果を招いている。

ソフトボール選手の金メダルを噛んで批判が相次ぐ河村市長 NHKより

筆者はビジネス記事を執筆する際に、どんな事象にでも光と闇の両方を取り上げ、できるだけフェアに分析を試みるスタンスを取っている。だが、この件についていえば、どうやってもポジティブな捉えどころを見つけることが不可能に感じられた。それほどまでに大きな問題行動である。後藤選手の胸中を考えると、気の毒でならない。特に今はコロナの暗雲が立ち込める状況である。それを吹き飛ばすようなメダルラッシュの明るい最中で起きた、冷や水を浴びせるような行為に多くの人が怒りを覚えている。

この事件の問題点について言語化を試みたい。

他人の所有物を噛む行為は明らかに問題行動

「噛んだものがお金で買えない金メダルだった」という取り返しのつかない事情を抜きに考えても、そもそも他人の所有物にいきなり噛み付くというのは明らかに問題行動である。

ちなみに金メダルを金属的価値で考えると、およそ10万円になるという。原価は10万円ほどだが、それを取得するために必要な努力はまさしく、人生そのものをベットしてようやく取れるかどうかという話である。そう考えると、実際の価値はまさしくプライスレスと言って差し支えないだろう。アスリートがそれまでの人生を丸ごとかけて獲得した金メダルである。そんな大事なものに突然噛み付くのは、人としての在り方を疑われても仕方がないと思えるレベルだ。逆の立場になって考え、自分の人生をまるごとベットして得たプライスレスの宝物を突然噛み付かれたらどう感じるだろうか?想像力の欠如に驚かされる。

選手への対するリスペクトが感じられない

また、最大の問題は五輪選手へのリスペクトの姿勢が感じられない点にあるだろう。

金メダルを取るという快挙を成し遂げた主役は、間違いなく後藤選手である。それなのに記者の前で相手のメダルを噛み付くのは、相手へのリスペクトというより、自己顕示欲を満たすための極めて身勝手な行為に感じられる。さらに批判を受けた際の謝罪に対して「愛情表現だった」と自己弁護的に取れるような発言をしただけに留まらず、「迷惑だったならごめんなさい」と条件付きの謝罪をしている。このようなお詫びの仕方からも、自身の行動の具体的な問題箇所の把握に至っていないと受け取られてしまうのではないだろうか。東京五輪の一年延期や、開催可否に振り回されながらも必死に努力を重ねて、大快挙を成し遂げた相手にとんでもない迷惑をかけたと認識できていれば、このような形式の謝罪にはならないように思えてしまう。

こうした問題行動が起きると、必ずと言っていいほど二次被害が発生する。すでにSNSを中心に「名古屋人はおかしい」や「こうしたセクハラ、パワハラは中年男性がするものだ」「おじさんはデリカシーがないからゾッとする」というような投稿も見られた。「問題を起こす名古屋人」や「おじさんによる加害」という大きな主語で事件が語られ始めている。また、今後も下手をすると海外ニュースとして取り上げられてしまうことで、「日本人はおかしい」といった日本全体への風評被害の可能性も否定できない。そう考えると、この事件による被害の大きさは計り知れないだろう。いずれにせよ、こうした問題行動は謹んでもらいたいと切に願うばかりである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。