3年に一度のバレエの祭典「世界バレエフェスティバル」が8月13日から8月22日に渡って開催される(全8回)。
今年で第16回を迎えるこの盛大な祝祭の第1回は今から45年前の1976年にさかのぼる。当時現役として活躍していたマイヤ・プリセツカヤ、マーゴ・フォンテーン、カルラ・フラッチ、アリシア・アロンソら大スター・バレリーナが一堂に会し、かつてないほどの規模のガラ・パフォーマンスに世界中が瞠目した。その後、様々な都市で「プリンシパルを集めたガラ公演」が開催されていくが、その発端となったのが1976年の東京での第1回バレエフェスだった。
前人未到のバレエの祭典を実現したのは、天才興行師・佐々木忠次氏(1933〜2016)。今でも佐々木氏を恩人と慕うダンサーは、シルヴィ・ギエムを筆頭に数知れない。2018年の第15回では、佐々木氏が亡くなって初の開催となったことから、通例のガラ公演が「佐々木ガラ」として故人を忍ぶ形で催されたが、第4回(1985年)に初参加し、引退後に奇跡的に復活したダンサーのアレッサンドラ・フェリが舞台上で語った「バレエフェスの思い出」は感動的なエピソードの連続だった。開催中、世界各国から集まったダンサーたちは素晴らしい昂揚感の中で準備に励み、友情を育み、連日ディナーを楽しみ「まるでオリュンポスの丘の上の世界であった」という。最高峰のバレエの神々が集結する祭りは、まさにアテネの神殿の如くだったのだろう。舞台を楽しむ観客もまた、ありえないほどの「天上のバレエ」を鑑賞する。世界の若いダンサーは、いつしかこの祭典に参加できることを楽しみにしているとも聞く。
新型コロナウィルス感染症の影響で通年通りの開催が危ぶまれたが、7月31日付で主宰側からの正式発表があった。入国審査の許可が下り、出演ダンサーと演目が決定した旨がホームページ上で公開されている。出演ダンサーは、パリ・オペラ座バレエ団、ハンブルクバレエ団、ボリショイ・バレエ団、シュツットガルト・バレエ団のプリンシパルが顔を並べる。
バレエのオリンピック、と呼ぶにはオリンピックそのものがあまりに不透明なものになってしまったが、東京オリンピック2020が説明できない「何故やるのか」「どのようにやるのか」「誰のためにやるのか」ということを、世界バレエフェスティバルは全て説明できるだろう。欧州では閉鎖された劇場も多く、招聘公演も次々と中止となり、踊る側にとっても観る側にとってもフェスの開催は待ち望まれたものだった。危機管理体制に関しても、2020年3月のパリ・オペラ座公演を敢行し、成功させた招聘側にはかなりの緊張感がある。相次いで来日キャンセルが続いた2011年 の東日本大震災の年にも、バイエルン国立歌劇場を招聘し、徹底した管理下での引っ越し公演を実現した。主催側は、驚く程逆境に強い。タフな精神力に何度も驚かされてきた。
佐々木忠次氏の著書『起承転転 怒っている人、集まれ!』(新書館)を読み返して、本当にどこまでも正直でストレートな方だと思った。文章ではいつも怒っているが、ちゃんと読めば見事に正論ばかりで、ぐうの音も出ない。これだけ本音で生きていたら敵も多くて大変な人生だっただろうと思う。しかし、佐々木さんは芸術家からは間違いなく全員に慕われていた。芸術家ファーストの人で、そこに敬意のない発言や振る舞いは徹底的に敵視した。そのブレない視点が、「誰もが無理」と騒ぎ立てた第1回の世界バレエフェスティバルを実現させたのだった。
国家的イベントが開催される中、混沌としたこの時代には、もうひとつの目に見えない国家が出来上がっているようにも思う。芸術家とファンをつなぐ不可視のネットワークだ。東京のオリュンポスの丘は、舞台の上にある。
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【第16回世界バレエフェスティバル】
公演情報はこちら
【Aプログラム】
8月13日(金)14:00
8月14日(土)14:00
8月15日(日)14:00
8月16日(月)14:00
【Bプログラム】
8月19日(木)14:00
8月20日(金)14:00
8月21日(土)14:00
8月22日(日)14:00
【会場】
東京文化会館(上野)
【出演者】
予定される出演者情報