転職できる民間企業従事者、転職できない公務員

岡本 裕明

経営好調なホンダが今、高齢者向けリストラを募集、見込み1000人だったところ、2000人以上が応募したと報道されています。全正規従業員の5%に当たる今回のリストラの理由は自動車の世代交代進めるために社員の世代交代も進める、ということのようです。

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リストラ対象年齢は55歳から64歳でホンダとしては若手登用とEV化の推進を図るため、とされます。ホンダは2040年までに全車をEVと燃料電池車化することを発表しています。同社は今年4月に社長交代となり、今までの八郷隆弘氏から三部敏宏氏に代わりました。申し訳ないですが、八郷氏が任期中の功績が今一つだった中で三部氏が非常に積極的に動いているように見え、ホンダの大復活があるような気がします。

ようやく黒字になった日産も1万人のリストラ計画を推進中です。事業が好調な今こそ、リストラをするという考え方は昔からありました。リストラという言葉がマスコミで盛んに取り上げられたのは90年代のバブル始末の頃で、私が勤務していたゼネコンもリストラを募集していました。その頃、業績が決して悪くない企業もリストラブームに便乗して人減らしをしたと叩かれたことがありましたが、企業が業績に関わらず余剰人員を抱えていたという証だったと思います。

今回のホンダの決断は余剰人員ではなく、業態の変化に伴う会社の体質改善であります。同様のリストラは製薬最大手、武田も2010年代に何度かやっています。社長をクリストフ ウェバー氏が2014年に引き継ぎ、企業体質が欧米化し、日本にある外国人経営会社の典型となっています。武田のリストラは薬の絞り込みでありました。製薬業界にはよくあるパタンで部門の売却や切り離しが日常茶飯事なのは研究開発費が膨大であり、何処にお金を集中投資するかが決め手となるからです。

ただ、ホンダにしろ、武田にしろリストラされても転職先はあるもので、特に技術系なら三顧の礼で迎えられる場合も多いものです。もちろん、本人の能力が問われますが、いわゆる民間型「天下り」的要素は無きにしも非ずであります。

とすれば民間企業の従業員はビジネスの環境変化に対する耐性を持ち合わせているとも言えます。例えば転勤や部署替え、更には厳しい人事政策も横目で見て、30歳ぐらいまでに2-3回、様々な分野を覗き、会社の業務を歯車ながらも自分が全体の中で何をやっているかぐらいは十分理解しながら社業に貢献していると言えます。

では公務員はどうでしょうか?そもそも公務員になりたいという人は多く、特に不況になると人気就職先ランキングで上位になったりします。理由は安定とクビにならない、であります。では、この労働環境でどうやって向上心を育むのでしょうか?私なら何のモチベーションもないので絶対に踏み込む仕事はしないでしょう。

日経ビジネスの連載「オリエント 東西の叡智を未来に活かす」にズバリ、こう記載されています。「下の人間が他国や他企業に簡単に移れる環境であれば、上が『下の気持ちをくみとってあげないとマズいな』となりますが、他に行きようがなければ下が『権力者に媚びないと生きていけないぞ』と上を忖度するようになります」と。つまり、日本の役人が忖度するのは人材がシャッフルできず、上も下も辞めたりすることがないため、人間関係重視型になるというわけです。

刑事や警察モノの小説をお読みの方ははっと気がつくと思いますが、警察組織は転勤、転職が多いのですが、シャッフルが多い分だけ捜査本部が立ち上がれば「あぁ、あの時に世話になった…」という話が必ず出てきます。役人の世界はそんなもので組織に何万人いてもなぜか、昔、何らかの縁があった人がが必ずいて、あとは転勤がない地元に張り付いたベテランさんとどううまく対処するか、という話になるのです。

ではこれだけ変化の激しい社会において「鎖国状態」のこのやり方が通じるのでしょうか?例えるなら外が快晴で気持ち良い日も台風で大荒れの日でも窓の開かない空調が効いた部屋から外を眺め、評論するだけになりかねないのです。だからコロナ対策一つ、満足にできないのです。日経ビジネスの連載は「失敗の本質」がテーマであり、なぜ、日本は何度やっても学ばないのか、というストーリーなのですが、私からすれば、窓が開かないのですから学べないのは当然と思っています。

学校の先生のなり手が減っています。かつては教職員になりたいという学生は非常に多かったのになぜ減少の一途かと言えば長時間労働、残業手当なし、親からのクレーム、問題児…と聞くだけでノイローゼになりそうなケースが山積しているからであります。勉強を教えるだけなら塾の先生がはるかに上手だと思います。なぜなら、彼らは成績を上げないと生徒が集まらず、お金を稼げないからです。教育にお金を持ち込むのか、という崇高な方からの意見も出ると思いますが、結局、先生のモチベーションは何なのか、ということにつながります。「ドラゴン桜」のように東大に何人入れるといった明白な目標はあるのでしょうか?

私は公務員規定を全面的に見直すべきかと思います。民間も役人も関係なく、人流が出来るオープンな組織にすることと公務員にも目標設定を明白にし、信賞必罰を取り入れるべきでしょう。「役人」という響きは士農工商の「士」だけが現在も取り残された状態であり、特権であり、アンチャッチャブルであります。責任所在が極めて不明瞭なこの組織を活性化したら日本は相当変われると思います。

令和の大改革、やってみなはれ、と言いたいところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。