英国はなぜ感染爆発の只中にコロナ規制を撤廃したのか

森田 洋之

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デルタ株の死亡率・ワクチンの効果など、最新データを徹底分析

さる7月19日、英国のジョンソン首相は新型コロナウイルス規制をほぼ全面解除するとしていた計画を、予定通り実施した。グラフのように、7月19日現在での英国の感染者数は増加の一途を辿っていたのだから、同じく感染拡大の真っ只中にあって緊急事態宣言で規制を強化している現在の日本の対策とはまるで逆の発想である。

当然英国国内でも根強い反対意見がある中での決断だったようだ。ではこのジョンソン首相の決断の背景には何があったのだろうか。

(なお、グラフをご覧になって不思議に思われるかもしれないが、英国ではコロナ規制を解除した後急激に感染が収束に向かっている。これは世界が注目している非常に興味深い現象なのだが、今回の記事の趣旨とは若干ずれるのでここではあえて触れないこととする。)

幸い、英国はこうした公衆衛生に関わる基礎的データを細かく公開している。今回はそのデータを詳細に分析することでこの謎に迫ってみる。

データは8月6日公開の最新データだ。

SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 20 6 August 2021

1. 現在ほぼ全てがデルタ株

こちらのデータによると、現在の英国の感染者のほぼ全てがデルタ株で、残りは不明とのことである。

今年の4〜5月まではアルファ株が圧倒的に優勢だったことを考えれば、アルファ株からデルタ株へ見事に置き換わったと言えるだろう。つまり英国で今回発生した感染爆発はほぼ全てデルタ株だったのだ。

日本で発生している今回の感染爆発も、その多くがデルタ株とのことなので、その点では英国の現在のデータは日本にも参考になるだろう。

2. デルタ株で死亡率は低下した

 英国発表のデータには株の違いによる感染者数・死亡数・致死率も掲載されている。それによれば、英国においてデルタ株の感染者が死亡する率はアルファ株の時より格段に低下しているとのことだ。具体的には以下の表の通り。

<過去6ヶ月における新型コロナ患者の致死率>

アルファ株 デルタ株
  50歳以上   4.8%    50歳以上   2.0%
  50歳未満  0.06%    50歳未満  0.03%
     合計     1.1%   合計     0.2%

50歳以上では4.8%から2.0%へ、50歳未満では0.06%から0.03%へと低下。全年齢の合計でも1.1%から0.2%へ、ほぼ5分の1となっているのだ。

ジョンソン首相のコロナ規制全廃の決定の背景にはこの「デルタ株における死亡率の低下」が大きく影響していると言えるだろう。

3. ワクチン接種者で死亡率が低い

 ではなぜデルタ株で死亡率が低いのだろうか。考えられる理由としては

  1. デルタ株自体が弱毒化したから
  2. デルタ株が流行したのはワクチンが普及した後だから

の2つだろう。英国の最新データはその点にも答えてくれる。デルタ株に感染して死亡した患者のうち、どれほどの人がワクチンを打っていたのか、打っていなかったのか、というデータだ。

<ワクチン接種歴別致死率(デルタ株感染によって死亡したコロナ患者のうち)>

接種済み 接種なし
  50歳以上   1.7%    50歳以上   5.9%
  50歳未満   0.02%    50歳未満  0.03%
     合計     0.16%    合計       0.4%

50歳以上の患者の致死率がワクチン接種によって大きく低下しているのが分かる。5.9%から1.7%ということなので、約3分の1以上の低下だ。このデータを見る限り、デルタ株の弱毒化にもましてワクチンの効果が非常に大きく関与していたと考えて良いのではないだろうか。

ただし、以下のグラフで分かる通りイギリスでは国民の半数以上がワクチンを2回接種した時点から感染爆発が発生している。

一般に言われている通り、ワクチンによって重症化・死亡は抑えられるかもしれないが、感染自体への抑制効果は小さいのかもしれない。ここは日本における感染者数増加と医療逼迫の問題を考える際に重要な要素となるので気をつけたいところである。

なお、合計の数字をみると「接種済み」で0.4%、「接種なし」で0.16%と、逆にワクチン接種によって致死率が上昇しているように見える。これは、感染者の母数が「50歳未満接種なし」の層で圧倒的に多く分母が薄まってしまったためであり、これがすなわちワクチンの効果がないということにはならない。しかし、このように合計の数字で「見せかけの誤謬」が発生してしまうほどに若年層の感染数が多く、そして致死率が低いというのも事実である。

4. 若者へのワクチン効果は1万人に1人

50歳に満たない若年層へのワクチンの効果が非常に限定的であることも強調しておきたい。たしかに若年層においてもワクチン接種によって致死率は0.03%から0.02%へ低下している。しかしその差は0.01%、つまり若年感染者1万人に1人がワクチン接種によって命が助かる計算であり、その差は非常に僅かである。基礎疾患のない健康な若者にとってはほぼ無縁の数字と言っても過言ではないだろう。

一方で、新型コロナワクチンは一定の確率で副反応が発生する。米国ワクチン安全性データリンクによれば、ワクチンによる心筋炎の発生頻度は約10万人に1人である。また副反応は心筋炎ばかりでなくアナフィラキシーショックなど様々存在し、また発熱や倦怠感など比較的軽度の(とはいえ仕事ができない状態が数日続くこともある)副反応はかなりの確率で発生すると言われている。さらに、サリドマイド・薬害肝炎など、過去の薬害被害では数年経ってから重大な副反応が判明することも実際にあった。以上のことを考えると、若年層の個人が享受できるワクチンのメリットは、想定しうるデメリットに比して決して大きいものではないと言えるだろう。

まとめ

以上のような統計結果をもとに、英国のジョンソン首相は感染爆発の真っ只中においてなお「規制撤廃」の決断を断行したのである。根強い反対意見を説得する上でも、こうした統計データは大きな存在価値を発揮しただろう。

もちろん、日本においてこの決断をそのまま受け入れるべきだというわけではない。先進諸国の中でも英国の決断は特筆すべきものであり、多くの国では依然としてコロナ感染対策としての規制が行われているのだから。

ただ一つだけたしかに言えることは、こうした英国で公開されているようなデータが日本ではなかなか見えてこないという現実だ。先般の国会において青山雅幸衆議院議員が厚労省にこの点を指摘したところ、回答は以下のようなものだった。

「英国の致死率低下は承知しているがワクチンも影響、確立した知見はない。期間別の致死率を公表してなかったかも知れないが見てはいるので公表できるか検討する。」

厚労省は把握しているものの公開はしていないとのことである。英国同様、こうした統計結果を分析することは日本でも非常に大きな価値を持っている可能性が高い。逆に言えば、ここがブラックボックスになったままでは現在のような感染対策を維持するしか道は残されていないのだ。厚労省には、こうした統計データの公開を早急に望みたいところである。