「戸建て」の奨め

かつてマンションのメリットは価格がリーズナブルで交通の便が良いところに居住地を構えることができる、でありました。それは日本の土地は高い、という神話があったことも背景の一つです。が、そんな話はバブル前のことです。更に高齢化と人口が減少している事実も大きく一部を除き、土地の価格は手ごろになりました。

そもそも高度成長期は政府の持ち家政策の後押しがあり先進国の持ち家比率である6割に達するまでは何処の国でも住宅産業は謳歌するのです。しかし、日本は昭和43年にそれを達成しています。そして今、出生者が80万人を割ろうかということは将来の新築住宅需要は80万x0.75x60%=36万戸しかないのです。(0.75は独身を貫く人と結婚をする人の比率を考え合わせてたもの)これではマンション業者も住宅業者も1/3になるし、土地の需要なんて極端に落ちてしまうのです。

東京一極は続くと言われてきましたが、コロナで東京都は入超から出超になりつつあるところです。理由はリモートワークなどの環境が普及したことでどうしても東京近郊に居住しなくてすむ人が「自由な住み方」を謳歌するようになったことがあります。

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私は長年不動産事業に携わっているのですが、マンションと戸建て、どちらが良いか、という長年の議論について金銭面に限って言えばからは戸建ての方が圧倒的に有利と申し上げます。

その理由を羅列しましょう。

  1. 戸建ての土地はあなたのもの。マンションの土地はみんなのもの。
  2. 土地の価格は償却しない、だから不動産に対して土地の比重が大きい方が将来価値は担保される
  3. マンションは共有部分の塊。管理費の多くは共有部のメンテに充てられ、あなたの部屋に直接的メリットがあるかどうかは別。
  4. 戸建てにはエレベーターもないしアメニティルームもない。エレベーターの管理費は高く、常駐管理人やコンシェルジュなどの人件費が管理費に占める割合は大きい。
  5. 劣化したマンションの対策は住民の一定数の同意が必要。戸建てはあなたの意思次第。

ぱっと思いつくだけでもこれだけあります。特にメンテ、管理の部分において木造戸建てとRCの高層マンションでは格段の差があります。給排水設備なども大がかりですから頻繁なメンテとコストは大きなものになります。また戸建てのメンテの一部は手先が器用な人なら自分でできる人もいるでしょう。一方、マンションの水回りを自分でいじって階下に漏水でもさせたらただ事ではありません。

戸建ては部屋の改造も容易です。家族構成が変わることによって間取りなどを変える場合でも融通が利きますが、マンションで間取り変更は極めて限定されてしまいます。

では最大の問題の戸建て価格です。土地だけみると選ぶところによっては都心に近いところでも坪200万円を切るような物件は結構あります。仮に15坪(50㎡)もあれば二階建てで80㎡ぐらいの住宅が建ちます。では建築費はいくらかかるか、ですが、一般には3000万円から4000万円と言われています。これは大きさというより住宅の基本性能を持たせる部分(台所やふろ、トイレ)は家の大小にかかわらず必要な為、どんなに小さくても一定金額はかかります。

一方、新築物件は一流メーカーにお願いすると目の玉が飛び出る価格になるのですが、工務店でやれば2-3割は違います。また、いわゆる業者価格となればもっと下がります。つまり、建築費には相当の利益が乗っていますのでうまくやれば一般相場の3割以上安くゲットすることも可能です。

更に、それすら高いと思うならフルリノベーションという手法があります。これは改築なのですが、ほぼ全部やり変える方法で、びっくりするぐらい安く収めることが可能です。間取りもかなり自由が利きます。安くできる理由の一つは許認可がいらないことが最大の要因でしょう。また使えるものは使い、古い部分も化粧をしてピカピカにすることが可能です。それならば大きさにもよりますが、1000万円から1500万円も出せばできてしまうのです。

いわゆる建売や建築条件付住宅は開発業者の利益がたっぷり乗っかっていますのでベストは自分で古家を購入するところからやるべきです。高齢化に伴い、古家付き売り物件は結構出ています。それを利用すれば都心や交通の利便性の良いところでも予算以下に納めることも可能かもしれません。

物価の安さを求めて田舎暮らしを選ぶ方もいますが、あまりインパクトがないものです。住居費は下がるのですが、食費やサービスのコストはさほど変わらないし、選択肢が狭まります。むしろ、自動車が必要だといった余計な費用がかかることもあります。それならば都心近くで戸建て物件を探す選択肢は大いにあると思います。

少し前の日経に「『マンション高すぎる』 住宅・通勤、一極集中再考迫る」では23区新築マンションの平均価格は2020年で7712万円、中古が4044万円とあります。それでもマンションを選ぶのか、土地持ちを選ぶか、その検討の余地は大きいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月31日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。