落ちこぼれの少ない日本を目指せ

アメリカで1%と99%の経済格差を正面からぶつけたのが2011年の「ウォール街を占拠せよ」でした。日本でジワリと格差問題が社会面をにぎわせるようになったのは小泉元首相が非正規雇用を解禁にしたことと紐づける傾向が強かったと思います。

ただ、アメリカにしろ、日本にしろ格差問題はこの10-20年の間に始まったわけではなく、1970年代から延々と続いていた問題ともされます。ただ当時は、経済拡大が続く先進国において若い人は雇用があり、高齢者は高金利の預貯金で食っていけたことで格差問題が表面化しなかったことはあるでしょう。

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90年代前半ぐらいまでなら金利は日欧米どこも高かったのです。1990年の日本の公定歩合(94年までそう称していました)は6.0%です。長期国債で10%の利回りなんていうこともあったのを覚えています。北米などは2桁金利が当たり前だったので5000万円相当のドルを持っていれば老後の心配は全くないとも言われたのです。これならばある程度の貯金がある高齢者は実質ベーシックインカムがあったともいえるのです。

ところがその頃から世界の金利が下がり始め、金利は上がってもその後の下落幅がもっと大きい状態が続きます。先進国の中央銀行は通貨供給の調整による経済のコントロールを主張するマネタリストが主流です。この思想は市場が「より強い刺激を求める」傾向が顕著となり、一時的な経済的快楽が起きるもののそれ以前の強靭な経済基盤を作ることが出来なくなります。つまりマネタリスト的な金融緩和は現代社会の麻薬であったかもしれません。その間、金利は下がり続け、金利で食べていた高齢者も貧しくなります。

一方、労働者層には何が起きたでしょうか?バブル後、企業は雇用のあり方を見直し、本格的コンピューター時代を迎えた作業効率化による人員削減、たびたび起きる経済的不安定(バブル、ITバブル、リーマンショック、コロナショック)と経済基盤の抜本的変化(昨日まであった製品が技術革新で消えること)で企業が従業員への雇用コミットが出来なくなったことがあります。

では所得格差を見るジニ係数です。日本のジニ係数だけでもいくつか種類があります。厚労省発表の「当初所得ジニ係数」「再分配所得ジニ係数」、総務省統計局が「全国消費実態調査」というのもあります。詳述は避けますが、先進国比較をする場合、大体ジニ係数が0.3程度が中心帯(0が格差なし、1が最大格差)です。厚労省の数字だと0.33ぐらいで総務省だと0.28で平均をまたぐ形になります。

結論から言うと日本のジニ係数は目くじら立てるほどではありません。過去20年ぐらいずっと同水準です。その点からすれば経済格差は本来は目立たない問題だということになります。ですが、社会面では格差が叫ばれています。なぜか、といえば貧困家庭が多いとされる点です。これも厚労省と総務省の数字は雲泥の差がありますが、メディアは煽るのが好きなので厚労省の悪い数字を使っているはずです。

その中で、私が外から見て思う日本は活性化能力が落ちているとみています。やはり世界最先端を行く高齢化社会ニッポンの弱点でしょうか。産経が「遅れる追加経済対策 家計支援策が総裁選の焦点に」という記事を配信しています。今回の総裁選でもコロナで家計が成り立たなくなった人たちの支援をどうするか、が課題になるというものです。

それはそれで重要なのですが、日本は厳しい経済状況の際に修正能力はあるのですが、抜本的対策を施すことなく、多くは金銭的処置などで終わらせてしまいます。日本が弱くなった理由、私は80年代バブル崩壊後の政権の無策と共に国民が変われなかったこともあると思っています。厳しい日々の生活を歯を食いしばるのは大変ですが、終わりなき戦いをしたのではないかという気がするのです。

例えば今回のショックで最大の焦点である飲食と旅行業界でその窮状を訴える声が多いのはご承知の通りです。しかし、誰もそもそも飲食店が多すぎたという話はしないのです。世界主要都市のレストラン数、ざっくりな数字ですが、東京はダントツの世界一、約15万軒です。2位がソウルで8.3万軒、パリは4位で4.5万軒、ニューヨークに至っては2.7万軒しかありません。この数字からすれば飲食店は本質的には半分にして値上げしてきちんとした収入を確保すればよかったのです。日本にはコンビニや総菜屋を含め外食代替手段はいくらでもあるのに経営側も国民も変われなかった、それだけの話です。

旅行も昔の団体旅行の時代ではありません。「企画もの」で頑張っているところも多いのですが、根本策にはなっていないと思うのです。

日本の弱さに「役人頼みで役人に責任を押し付ける癖」が非常に強い点があります。上述の産経の記事、「選挙対策の政策で救いの手を」ではダメでもっと労働者層が力をつけるべきだと思っています。生きることはたやすくありません。昔はそれでも社会構造がシンプルでした。今はとても複雑ゆえに何でも国に頼らずに自分自身が力をつけることを考える時が来たともいえます。

このままでは格差というより落ちこぼれる国民が増大するリスクはあると思います。落ちこぼれを防ぐには金銭的支援では緊急対策になっても根本解決にならず、職に就ける技能を支援を打ち出すなどが本来あるべき国家の姿勢ではないかと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月8日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。