ベネズエラのマドゥロ大統領を追い込む人物がマドリードで再逮捕

ベネズエラのマドゥロ大統領を窮地に追い込む鍵を握っている人物がマドリードで再逮捕された。

ベネズエラは政府自らが犯罪を率先して行っている

ベネズエラは政府自らが麻薬と資金洗浄を率先してやり、ゲリラ組織とも関係を持っている犯罪国家だ。反米主義に徹していたチャベス前大統領は米国に麻薬を押し込んで社会的に米国を崩壊させる意向を持っていたほどの人物だ。

今もベネズエラには軍人が中心になった麻薬組織カルテル・デ・ロス・ソレス(Cartel de los Soles)が存在している。この陰の創始者はチャベス氏だった。コロンビアでゲリラ組織が密売しているコカインをカルテル・デ・ロス・ソレスが仲介してベネズエラ経由で米国に密輸されている。このシステムで軍の幹部はゲリラ組織から大金を稼いでいる。

この国家レベルの犯罪組織のトップに現在マドゥロ大統領がいる。そして実務面でそれを仕切っているのがベネズエラでナンバー2として君臨しているのがチャベス前大統領の忠実な部下だった軍人ディオスダド・カベーリョ氏だ。

マドゥロ大統領を窮地に追い込む鍵を握っているカルバハル氏がスペインで逮捕された

9月9日、マドゥロ大統領を不安にさせる出来事が起きた。ベネズエラの軍人ウーゴ・カルバハル将軍(61歳、通称エル・ポーリョ)がマドリードで麻薬・組織犯罪防止グループ(UDYCO)によって再逮捕されたことだ。彼が正にマドゥロ大統領が麻薬犯罪や資金洗浄などに関与していることを証明できる人物だ。

カルバハル氏もカベーリョ氏と同様にチャベス前大統領の腹心であった。カルバハル氏は軍人諜報局(DIM)のポストからカウンターインテリジェンスの活動も加えて国軍諜報局(DGCIM)を組織してその局長を務めていた。

ところが、諜報活動の考え方に軍人出身ではないマドゥロ大統領と考え方に相違が発生していた。それはおりしもファン・グアイドー氏がマドゥロ氏の反対勢力として台頭していた時であった。そこで、カルバハル氏はグアイドー氏を暫定大統領として支持することを表明した。この支持表明によって、カルバハル氏はマドゥロ氏の敵となり、ベネズエラに留まることに不都合を感じるようになっていた。

この動きを掴んでいた米国の麻薬取締局(DEA)はカベーリョ氏と一緒になって米国での麻薬の密売をリードしていたカルバハル氏を逮捕すればベネズエラの麻薬密輸、資金洗浄、コロンビアのゲリラ組織との関係などの詳細が掴めると判断。そこで米国は麻薬の密入によって多大の被害を受けたとして彼を指名手配した。また彼の逮捕につながる情報提供者には米国は1000万ドルの懸賞金を提供することにした。(9月10日付「エル・エスパニョル」から引用)。

機密情報を提供するとしてスペインに亡命の受け入れを要望

カルバハル氏は彼が諜報機関の局長をしている間に掴んだ情報などを提供するのと交換でスペインへの亡命を選んだ。そこで彼の息子がスペインに在住しているのを利用してスペインを訪問した。米国DEAから指名手配の情報が伝えられているスペインは彼を逮捕した。それは2019年4月12日のことであった。DEAはスペインに対して早速彼の身柄の送還を要請した。

同年9月16日、スペインのアウディエンシア・ナシオナル(テロ・麻薬犯罪などを専門に裁く裁判所)は米国からの身柄送還の要請は犯罪そのものを裁くというよりも政治的動機が強いとしてその要請を却下した。ところが、検察はその判決を不服だとして上訴した。その結果、11月8日、前回の判決を覆して米国への送還を言い渡したのであった。

この判決情報をメディアから事前に掴んだカルバハル氏は行方をくらました。

1年10か月間マンションから一歩も出ず

失踪から今回の逮捕につながるまで彼の居場所についてイタリアにいるとかいろいろな憶測が流れた。ところが、今回の再逮捕まで1年10か月の間、カルバハル氏はスペインから一歩も出ていなかったのである。3か月ごとに住むマンションを変えていた。そして今回逮捕されたマンションには8か月いたそうだ。そこは床面積146平米のマンションで、そこから一歩も外出せずにいたというのである。唯一、外の空気を吸っていたのはバルコニーに姿を現した時だけであった。バルコニーは背の高い植物で飾ってあり、彼は顔の整形手術に加え鬘と付け髭でいつも姿を見せていた。しかし、それも夜だけに限定していたそうだ。(同上紙「エル・エスパニョル」から引用)。

彼に食料や身の回りの物などを提供していたのは彼の数名の協力者で、また逮捕されたところのマンションには同じベネズエラ人の女性がひとり住んでいた。彼女がそこの借主で、カルバハル氏の手となり足となって協力していた。そこに麻薬・組織犯罪防止グループがドアをこじ開けて家宅捜査を行った時にはこの女性は不在で、カルバハル氏は玄関から一番遠い部屋にいたそうだ。

マンションには重量挙げ用品やその他にも日々室内で運動できる機器が用意されていたという。

マドリードで麻薬・組織犯罪防止グループがマドリードでの捜査に集中するようになったのは、DEAから彼がマドリードで身を隠しているという確かな情報があると伝えて来たからだという。

その最初の形跡と思われる情報が麻薬・組織犯罪防止グループに伝えられたのは、あるマンションで人が住んでいないはずなのに音がするという情報が同じ建物の住人から伝えられたというのである。その情報をもとに国家警察とDEAは外部からの見張りを強化して逮捕に踏み切ったのであった。

米国への身柄送還が保留となった

カルバハル氏は亡命先としてスペインを選んだことは間違っていたと表明していた。当初、アウディエンシア・ナシオナルは彼の米国への身柄の送還を否定していた。ところが、その後判決が奇妙にも180度変わったのである。

そして最終的にカルバハル氏の米国への送還の決定がアウディエンシア・ナシオナルで下されることになっていた9月14日、アルフォンソ・ゲバラ判事を裁判長にした3人の判事は予想を覆してこの送還を一時的に保留にする判決を下したのである。保留にした理由として判事が挙げたのは、2019年から米国からの送還の要請について内務省の方で公式にその要請がない限り送還についての判決は下すことはできないとしたのである。

これには少し補足説明が必要である。カルバハル氏はスペインに到着するまでスペインの中央情報局(CNI)が手助けしていた。彼がマドリードに到着した時もCNIの職員が迎えに行ったほどであった。彼がエストゥレメラの刑務所に収監されていた時もCNIは彼と目立たない形で面会していた。

即ち、CNIと内務省の間でのカルバハル氏の処分について統一された公式な見解を明らかにしない限り法廷では先走りして彼の米国への送還について如何なる判決も下すことができないということなのである。(9月14日付け「OKディアリオ」から引用)。

また、今回の送還を保留にした裁判長アルフォンソ・ゲバラ氏は判事として異質の存在で、被告の罪状がどうであれ被告の権利を保障する姿勢を常に持っている判事だ。

だから逃亡するのがわかっている被告でも、被告の権利を起訴された罪状よりも優先するという意向を見せる傾向にある判事だ。

しかし、最終的に内務省が彼の亡命を受け入れないと決定した場合はそれにカルバハル氏が異議申し立てをしても恐らく米国への送還は避けることはできないであろうと見られている。