本年1月頃から「協力金バブル」という言葉がSNSを中心にネットを賑わせ、小規模飲食店にとっては過度な支給額であること、そして不正受給の問題が取り沙汰された。しかし何故か報道機関はこの問題を殆ど取り上げず、与野党ともに政治課題とすることもなく、未だ世間一般には周知されないままである。
冬から春を超え夏を超えて秋に至るも暴走を続けるこの協力金バブルの実態は如何なるものか、それは絶対このまま済ませてはならない、コロナ禍の混乱に乗じた未曾有の大問題である。
時短営業協力金の一律支給は前代未聞の愚策
私が住む横浜では昨年12月から時短営業の協力金が1日2万円から4万円と段階的に増え、1月12日からは20時迄の時短要請に従うだけで1店舗ごとに1日6万円、1ヶ月31日なら186万円という衝撃が小規模飲食店を駆け巡った。
うちも該当するのか? 20時に締めるだけでそんな大金貰えるの? 菅政権は狂ったのか? えっ休業しても貰えるんだ。いや、そんな制度は即刻訂正されるに違いない・・
この前代未聞の協力金の異常極まりない欠陥は次の通りだ。
有効な営業許可書さえあれば、店の規模も売上も家賃も人件費も一切関係なく、営業実態すら関係なく、営業許可書ごとに「一律支給」する。
なんと定休日も営業日数も関係ないので、ずっと休業して遊んでいようが、店を放置して他の仕事をしようが全く構わなく、とにかく要請期間の全日分が全額貰える。しかも確定申告もせず税金を払ってない不届き者でも全額OK、という思わず意識を失いそうな事態である。
これは時短要請の協力に対する補償ではない。補償であるなら時短営業による減収分が目安になるので、一律支給などあり得ない。実際に行政は「補償ではなく協力店へ感謝の意を示すものです(神奈川県産業労働局)」と全く意味不明な説明をしているが、感謝の意? ご褒美? 謝礼? それはおそらく一般市民には永遠に容認されない戯言であろう。
これは要するに「営業許可書さえあれば何もせずとも毎月大金が貰える」という驚愕のシステムであり、その運用実態は特定の個人や組織への税金の不当なばら撒きである。
しかも新規開店でも閉店舗の再開でも間借りでも何でも構わないので「できるだけ経費のかからない小規模店舗を押さえるほど大儲けできる」ということだ。実際に営業する必要はないので経験やスキルも一切関係なく、ただ営業許可書さえ手に入れればいい。
だから今年はコロナ禍のはずが小規模飲食店は閉店よりも逆に新店舗が目立ち、バブル店主は店を手放さないので、小規模店の空き物件がなかなか見つからない状況になったわけだ。
そんなことが本当にあり得るのか? いや、この国ではすでに1年近くもその状態が継続・拡大しながら今も暴走を続けている。
協力金バブルとは
飲食業界は大・中規模店よりも小規模店の方が圧倒的に数が多く7割以上が小規模店だと言われており、例えば裏通りや雑居ビル、街の外れや普段目に留まらない所にも飲み屋、カウンターバー、スナックなどが氾濫している。特に店主一人で従業員なし人件費ゼロの店は所謂ワンオペ店と呼ばれる。
私が利用する横浜のワンオペ店なら月家賃が3万円から10万円程度、よって月186万円は極めて大金であり、毎月それだけの「利益」を上げるワンオペ店はおそらく存在しないはずだ。協力金バブルとはあくまでもこのような小規模店の問題であり、従業員を雇って懸命に経営する大・中規模店は該当しない。その規模に関わる制度の大欠陥を明らかにせぬまま、協力金バブルの実態は誤魔化されてきた。
現在10月24日までの時短要請全期間の協力金総額は、横浜市なら私の試算では最低でも1361万円、東京都なら1500万円超であり、それに持続化給付金など他補助金が加わる。最低でも、と言うのは本年4月から以前の売上に則した売上高方式が導入され、より高額の協力金が可能となったからだ。(実はこの方式により大・中規模店にも協力金バブルが多発している)
ワンオペ店で人件費なしの場合、月家賃3万円なら10ヶ月間の経費は光熱費抜きでほぼ30万円、家賃5万なら50万円、8万なら80万円、自己所有店舗や自宅1階の店などは0円。そんな個人が何もせずとも1300~1500万円貰えたのが協力金バブルであり、そんな店が横浜市だけで数千軒はある。
またコロナ長者や新富裕層あるいは人生ゴールインなどと揶揄されるのは営業許可書を複数保持する者だ。店の運営や関係者が重複していようが構わないので、東京で2軒なら3000万円、3軒なら4500万円、実際にカウンターバーなどを7軒運営する私の友人なら獲得総額は1億円超になっているはずだ。
今まで協力金を申請した店は全国で約50万軒まで拡大し、おそらくその7割以上はバブル状態にあるだろう。
すでに国税・地方税入れて支出は5兆円以上に膨大してしまっているが、過度の支給分は明らかに国や地方行政の怠慢・不作為による税金の不当なばら撒きに他ならない。
そもそも不合理極まりない時短営業の要請
まず当初から大混乱を来したのが「20時迄」という運命の区切りである。
例えば閉店時刻が20:30だったら30分早く閉店するだけで月186万円、しかし閉店時刻が20:00だったら0円、そんなバカなである。
週末の金土だけ適当に営業するスナックのママは休業して遊んでるだけで月186万円、しかし毎日朝から20時まで懸命に働く定食屋さんは0円、こんな理不尽なことは時代も場所も関係なく有り得ないのではないか。
そもそも小規模飲食店にとって営業時間の設定や運用は臨機応変あるいは適当であるのに、20時という区切りで大金が貰えるか否かという運命を差配するなど絶対にあってはならない。
営業時間と違って誤魔化せないのが該当エリアの問題である。
時短要請は地方行政機関により市区町村単位で行われるので、協力金を貰えるか否かは明確に線引きされる。例えば道路の向かいの店はずっと休業して遊んでいて月186万円貰えるのに、毎日コロナ禍で懸命に働くうちの店は0円、そんなバカなである。いや余りのバカバカしさに世の中が嫌になっても仕方なかろう。
おまけにこの問題が根深いのは、非該当エリアの飲食店が時短要請への渇望を起こしたことだ。お願いだからうちの町にも時短要請して下さい、といった非条理な心理が蠢きながら、非常事態宣言や時短営業要請の拡大・継続を促すことになったのではないか。
協力金バブルの実態
SNSでは「これじゃ毎月宝くじに当たってるみたい!」など協力金バブルで贅沢三昧の話が氾濫し、協力金に与れない店や一般市民の反感・嫉妬・憎悪を生んだのは当然である。
そのバブル模様や酒池肉林の様には逐一触れないが、一点だけ申しておきたい。協力金バブルの節税対策で店をリニューアルしたり、備品を買い替えたり、新店舗を手に入れたり(これは協力金目当てもある)、開店時の借金を返済できました、等々は飲食業者として前向きでまだ許せる方だ、というのは間違いである。何故そんな資金を我々が税金で支払わねばならないのか、絶対あり得ない。
そして時短営業または休業案内が街中の飲食店に貼り出されたが、明らかに協力金目当ての不当なケース、誰もが呆れ果てるような光景が氾濫した。
例えばすでに閉店してたはずの店、しばらく休業中だった店、えっこんな所にお店あったっけ、食料品店にいつの間にかイートインが、なんと一般住居の玄関先に簡易テーブル・椅子を置いただけのかき氷屋、これってどう見てもただの廃屋なんですけど・・等々、急拵えのタピオカ屋は「協力金製造マシーン」と揶揄される有り様だ。
協力金バブルが暴走・拡大しながら「史上最悪の事態」になった要因は、1日6万円、月186万円、数ヶ月で数百万から数千万円になるという個人にとってその金額の大きさにある。この金額は例えば生活保護の不正受給の10倍以上、振り込め詐欺でも高額被害に当たるだろう。
ではその史上最悪とは一体どういう事態か? それはおそらくこの短期間では前例がないと思われる、不正受給という犯罪の大量発生である。
無法地帯と化した協力金バブル
都道府県の協力金の案内には必ず「虚偽申請及び不正受給への対応」の警告があり、「協力金の不正受給は犯罪」であること、「交付要件を満たさない事実・虚偽・不正等が発覚した場合は、協力金の全額返還、あわせて交付した協力金と同額の違約金の請求」が周知されている。ならば、私の友人・知人だけでも何十人も犯罪者がいるわけだ。そうか私は夜な夜なそんな犯罪店で飯を食い酒を飲み明かしているのか。しかし何かおかしい・・だって未だにお咎めを受けた者は一人もいない!
協力金バブルが生んだ不正受給という大量犯罪における二大看板の一つが「営業時間の捏造」である。
そりゃ誰でも月186万円貰えるなら貰いたいから、閉店時刻の情報を修正しちゃえ、どうせ営業実態は関係ないし、わざわざ調査もしないだろう、とりあえず申請してみっか、あっ入金された。
SNSでの不正の指摘や、おそらく行政への通報でも営業時間の捏造は数多いだろう。例えば同じ店舗内で20:00以降に複数の店が順番に営業する荒業まで出現したり、ある観光立県などは昼メインで夕方まで営業の飲食店が多いのに、もの凄い数の不正申請で頭を悩ましたようだ。
そして二大看板のもう一つが、言わずと知れた所謂「闇営業」である。そもそも小規模飲食店の多くは看板を消して入口ドアを閉めていれば、表からは営業しているか否かは分からない。
よって恒常的に闇営業する店もあれば、平気で20時以降に開店して朝方まで、遠慮がちに1~2時間だけ、換気のため堂々と窓を開けて大騒ぎしていたり、週末だけとか、たまに貸切でとか、闇営業で以前より繁盛してます! 等々そのスタイルは千差万別だが、とにかく小規模店の闇営業はあちこち当たり前に存在し、その全店主が抜け抜けと協力金を貰っている。
もう誰にもお分かりだろう、要するに時短営業の協力金など最初からデタラメだらけで狂気の沙汰だったのだ。そして国や行政がその余りに稚拙なデタラメさを何ら改めないため、協力金バブルが今日まで暴走・拡大を続けながら大量の犯罪行為を誘発したのである。
では何故ここまで狂った暴走を誰にも止められなかったのか? そこにこそ、この協力金バブルの救いようのない闇がある。
(後編に続く)
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前田 米
ソフトウェア企画開発会社、代表取締役。映像制作、マルチメディアプロデューサー、ゲームソフト企画開発等を経て現職。