説明と言い訳の混同

藤原かずえ講座

情報操作と詭弁論点の誤謬論点混同説明と言い訳の混同

説明と言い訳の混同

Confusing an explanation with an excuse

理由の説明を言い訳と混同する

<説明>

【理由 reason】とは、行動・出来事の【原因 cause】を意味します。理由の【説明 explanation】には、①言説の立証を目的とする正当な説明、②言説の立証を目的とする不当な説明、③言説の論者の過失の正当化と責任の回避を目的とする不当な説明があります。ここに②を【論理的誤謬 logical fallacy】、③を【言い訳 excuse】といいます。

言い訳は説明の一種ですが、すべての説明が言い訳というわけではありません。「説明と言い訳の混同」とは、上記①と③の混同を意味します。詭弁を使うマニピュレーターは、この混同につけこんで、前提となる正当な説明を意図的に無効化することで自分にとって好都合な結論を導きます。

誤謬の形式

言説Spは言い訳なので、言説Spは理由の説明にならない。

※ここで、言説Spは理由の説明として正当(論理的に妥当あるいは蓋然性が強い)である。

<例>

<例a>
航空会社:8時のフライトは目的地天候不良のため欠航となります。
乗客:言い訳はやめなさい。

人生で遅刻を犯したことがない人はおそらく皆無でしょう。したがって、一度の遅刻を犯した「すべての人」にダメという烙印を押す判断は蓋然性が弱いと言えます。

<例b>
上司:なぜ遅刻した。
部下:道が混んでいました。
上司:言い訳はやめなさい。

道が混んでいたのが虚偽であれば、部下の説明は自分の過失の正当化と責任の回避を目的とする不当な説明、すなわち言い訳です。道が混んでいたのが真実であれば、部下の説明は理由の正当な説明であり、言い訳ではありません。但し、部下は上司に対して道が混んでいたことを立証する責任があります。

<事例1>森友問題

<事例1>参・本会議2018/06/29

相原久美子議員(立憲民主党):多くの国民の皆さんが、これら疑念、疑惑(森友学園に関わる国有地売却問題)に対する政府の対応に不信の念を持っており、説明責任が一向に果たされていないことは世論調査で明々白々です。国民の皆さんへ真相を明らかにすることが、三権分立の立法府の一員として求められています。これ以上の見苦しい言い訳に終止符を打ち、行政、政治への信頼を取り戻す姿勢が求められていることに党派を超えて協力していくべきであることを申し上げます。

モリカケにおいては、追及側であった野党とマスメディアが事実の挙証責任を果たさずに、論理的に不可能な【悪魔の証明 probatio diabolica】を要求し続けました。説明側が説明責任を果たすことが論理的に不可能である中、相原議員は説明側の説明を「見苦しい言い訳」と表現して批判しています。もしこれを認めれば【魔女狩り witch-hunt】が可能になります。例えば、ある人物が「相原議員は詐欺師である」と主張し、その人物に挙証責任がない場合、相原議員はいくら反論しても自分が詐欺師でないことを立証することはできません。これは悪魔の証明であるからです。この時、相原議員のすべての反論は「見苦しい言い訳」と断定可能になります。モリカケ問題では、このような恐ろしい非論理的行為が堂々と展開されたのです。

<事例2>ワクチン接種一日百万件

<事例2>衆・厚生労働委員会2021/07/07

長妻昭議員(立憲民主党):七月、八月についても、総理が音頭を取っている一日百万件、できれば土日も。これをちゃんと一日百万件、真面目に皆さんが力を合わせてやった場合、百万件やったけれども足りなくなりましたということはないんですね。

田村厚生労働大臣:一日百万回ですと、土日も含めて、大体月三千万回になるわけですよね。要は今、市中に大体四千万回分があります。九月までに七千万回分が順次入ってきます。それを合わせて三千万回以上打てる形で、七、八月は対応できる供給量で、総数はあります。問題は、ミスマッチが進むと「うちはまだワクチンは残っているんだけれども、あそこは足らない」なんてことが起こってきますので、このミスマッチが起こらないように、例えば、VRSで接種回数、V-SYSで供給量が分かりますので、これを見ながら、ミスマッチが起こらないような対応をちゃんとしていきたいと考えています。

長妻議員:非常に曖昧ですよね。VRSもタイムラグが相当あり過ぎるという欠点がありますけれども。総理大臣が「最大の政治生命を懸けて一日百万件」と言って「百万件については必ず供給は確保するんだ」と。七月、八月、明言できないわけですね。ミスマッチがあった場合は「ちょっとそれはできない」と。ちゃんとこれは総理に、自らやはり語るべきだと思うんですよ。これはみんな一生懸命、百万件ということで、いろいろな人材を配備したり会場を押さえたりしているわけで、その百万件ですら供給が追いつかないというのは、七月、八月、これは無責任じゃないですか。ミスマッチといっても、それは言い訳にしかすぎないと思うんですね。

上記のような状況において、ワクチン配布のミスマッチが起これば、一部の地域でワクチン接種が不可能になる可能性があります。これは、一日百万件のワクチン接種が不可能となることがある理由の正当な説明であり、言い訳ではありません。田村厚生大臣はその原因となるミスマッチが起こらないような方策を併せて説明しています。世の中の森羅万象は不確定現象であるので、100%明言できないのは当然であり、無責任ではありません。むしろ理不尽な責任を取らせるために100%明言を求めることの方が非論理的です。

結果は、このような野党やマスメディアの当て推量を根拠とする無責任な非難とは真逆になりました。菅政権は国民との約束を守り、2021年6月から10月まで一日百万件を裕に超える世界最速の驚異的なスピードでワクチン接種を進め、G20で最低となるコロナ致死率を達成したのです。

日毎の日本国内のワクチン接種回数(NHK調査

なお、東京五輪開幕の4連休とお盆は一日百万件を達成できませんでした。供給ではなく需要が減ったためです。勿論、これは言い訳ではなく理由の説明です。

<事例3>萩生田大臣の言い訳

国会答弁においては、大臣が答弁をするたびに、質問者に「それは言い訳です」「言い訳はやめて下さい」と言われるのが日常茶飯事ですが、そのような批判を見事に回避しているのが萩生田光一氏です。

<事例3a>参・文教科学委員会 2019/12/05

萩生田光一文部大臣これは言い訳ではないんですけど、やっぱり縦割りの中で、義務教育の対象者じゃないがゆえに、住民基本台帳があったとしてもそのひも付けが小学校入学前の手続につながっていなかったということが大きな問題だと思っていまして…

<事例3b>参・文教科学委員会 2020/04/07

萩生田大臣決して言い訳じゃないんですけど、他方、開館をしながら数少ない学芸員の皆さんといろんなプランニングするより、今は時間があるものですから、しっかり取り組んでいただけるという自治体や館も中にはございますので…

<事例3c>参・文教科学委員会 2020/05/21

萩生田大臣言い訳じゃないんですけど、この事態が生じたときにNHKに対しても協力要請をしました。

<事例3d>衆・予算委員会第四分科会 2021/02/26

萩生田大臣:荻生田大臣:これは言い訳になりますけれども、日本の、言うなら行政側と大学自治とのたてつけの問題があって…。もはや、言い訳はお互いできない環境をつくっていかなきゃならないわけですけれども。

<事例3e>衆・文部科学委員会 2021/03/10

萩生田大臣これは言い訳になっちゃいますけれども、やはりそれぞれの自治体あるいは学校の発達段階に応じてその持ち帰りは、私は持ち帰っていただいて大いに活用していただいた方がいいと思います。

<事例3f>衆・文部科学委員会 2021/03/17

萩生田大臣言い訳じゃないんですけれども、まず一つは、ここで義務標準法の法律を提出させていただきましたので、向こう五年間については、計画的な採用、配置というものは定数の中ではできるということになりました。

<事例3g>参・文教科学委員会 2021/03/22

萩生田大臣:実は、橋本大臣と年明け行ってみようよということで、メディアなどを引き連れない形でお邪魔をしようということで話をしているうちにこういう事態になってしまいましたので、言い訳がましいんですけど、時期を見てお邪魔してまいります。

<事例3h>参・文教科学委員会 2021/03/30

萩生田大臣:荻生田大臣:例えば、負け惜しみじゃなくて言い訳をするとすると、よく使われる世界ランキングって、これ要するに国際論文、英語で出された論文、まあなかんずく科学技術系が圧倒的に多いんですよね。

<事例3i>参・文教科学委員会 2021/04/07

萩生田大臣:現時点では、参考資料に対する意識の希薄やマニュアルの不備などが原因の一つと考えていますが、これは言い訳にならないと思います。引き続き、原因の徹底究明と有効な対策の検討を行っていく必要があると考えております…これも言い訳になりませんので、今後は、参考資料についてもしっかり読み合わせをする。

荻生田大臣は、答弁において「言い訳」を宣言して質問者を油断させておいて、ちゃっかり理由を説明するのです。明らかに意図的です(笑)。「説明と言い訳の混同」を逆手に使う、ズル賢いというか、非常に賢い弁術と言えます(笑)

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