専門家たちの視野狭窄のコロナ対策に見る日本の科学力劣化を直視せよ!

総選挙番外編―コロナ対策に見る日本の科学力劣化を直視せよ!

科学なきコロナ対策については、多く語ってきた。今日は異なる角度でデータを紹介したい。日本の専門家たちの視野狭窄が垣間見えるデータである。自ら考えることがないメディアの劣化もよくわかる。

kohei_hara/iStock

10月24日現在のコロナ感染者数感染者の上位20か国を下の表に示す。インドの感染者数は多いが、人口は約14億人であるので、人口当たりの割合にするとそれほど高くないように思える。そして、注目すべきなのは人口100万人当たりの死亡者数だ。

感染者数だけに目を奪われがちだが、この表から、人口100万人当たりの死亡者数の違いが歴然としている。この20か国を比較すると、インド、インドネシア、フィリピン、マレーシアの死亡者数が際立って低くなっているのがわかる。トルコも低いとは言えないが、3桁となっている。欧米・南米は軒並み4桁の数字である。

21位以降を見ても、ヨーロッパ諸国は2000人前後であるのに対して、日本を含むアジア・UAEは数百人であり、一桁低くなっている。医療供給体制がこれらの差となっていないことは明らかであるし、今年春以降は、世界の大半がデルタ株である状況を考えると、ウイルスの違いというよりも、国民の免疫力の差がこのような差につながっていると考えるべきだ。

どのような理由が考えられるのか?

  • ウイルス感染応答の違い。以前も述べたことがあるが、人の遺伝子のうち、人種間の遺伝子多型のもっと大きいのが、免疫関連遺伝子であり、その違いによってウイルス感染時の免疫反応の違いがある。これに関しては、インターフェロンに対する抗体を持っている人が重症化しやすいというデータや、自然免疫遺伝子の違いが、重症度の違いに関連しているという報告もある。
  • HLA、T細胞受容体、B細胞受容体遺伝子の多様性の違い。5%程度の人が、ワクチン接種を受けても、抗体ができないようだ。マウスより格段に高い人間の多様性を理解していれば当然だが、遺伝学・ゲノム学・ヒトの免疫学に対する知識の欠如した人たちが議論しているので、このような観点での考察ができないのだ。
  • COVID-19に類似した風邪コロナウイルスへの罹患があったために、アジア人では欧米人に比してCOVID-19に対する免疫力が高い。抗体は半年―1年で落ちていくが、T細胞免疫は比較的長く数年単位で持続する。コウモリから人へのコロナウイルス感染は持続的に起こっているようなので、COVID-19により近いゲノムを持っているコロナ18、コロナ17風邪ウイルスに感染していると一定の免疫が保持されている。

他の可能性もあるが、日本は、「病気の名前が浮かばないと適切な検査もできない」のと同じで、科学的発想が欠如しているので、科学的なアプローチ法さえ浮かばないのが実情だ。日本の記憶中心の教育が、日本の危機につながったと言っても過言ではない。考える力がなければ、洞察する力がなければ、日本の再興はない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。