東京の混雑が戻ってきた。
- 片側のエスカレーターに並び、我慢して待つ
- 改札口前でうまく通り抜けられない人が立ち往生して困る
- 狭い通路で対向してくる人とぶつかりそうになる(最悪あたる)
- ぎゅうぎゅう詰めの電車に乗り、新型コロナへの感染を恐れながら電車に揺られる。咳する人を苦々しく思う
- オフィスのエレベーターで1階への到着を待つ
- エレベーターはぎゅうぎゅう詰め、新型コロナへの感染を恐れながら階数表示を見る、たまたまドア付近に立ってしまうと階ごとに降りる羽目になる
かってよりはかなり「まし」にはなったが、ストレスフルな都心の日常が戻ってきた。
新型コロナウィルスで明らかになったシステムの脆弱性、平均賃金・1人当たりGDPなどOECDで厳しい順位が共有されてきた中、見直されるべきものは東京一極集中だ。それなのにもかかわらず、中心テーマになっていない。
現状の集中度合はすさまじい
まずは現状の確認だ。コロナ前のデータになるが、31区間ピーク時の平均の混雑率は163%であり、肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読めるレベルの150%と新聞は読めるレベルの180%の間だ。ただし、これは平均であって、地下鉄東西線では、体が触れ合い、相当な圧迫感があるが、週刊誌なら何とか読めるレベル(199%)という状況である。極度の緊張状態の通勤を迫られていた(現在は新型コロナで改善しているだろうが)。通勤にかかる住民のストレス・健康負担は相当のモノである。まとめると以下になる。
なぜ東京一極集中が進んだか。第一に、国策であったからだ。明治維新以来の東京への移転、政策的に誘導された。東京への集中は関東大震災など、一部戻るところもあったものの、大きな流れは止められなかった。うまくいくとどんどん入ってくるという流れは戦後の経済成長で加速した。第二に、高度成長時代にとっては、東京圏に集中することが都合がよかったからだ。政府にとっても、会社にとっても。第三に、広大な平野があったことだ。関東平野は本当に広い。
しかし、ここまで集中してしまうと、東京集中のサイクル・流れが止まらない。首都機能移転論、地方創生政策など政権が取り組んだが、結果がでなかったというのがこれまでの現状だ。
各党の政策
自民党総裁選で河野氏も、岸田氏も掲げた東京一極集中の是正、各党の政策を見てみよう。
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自民党は、2021年政権公約としても明言している。
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立憲民主党では、「4 地域分散・分権(内需主導)型の経済を実現」と掲げて、詳細に記載されている、
「権限・財源・人間」の東京一極集中が進む一方で、地方では過疎化が進み、地域の活力が失われつつあります。ものごとの決定や自治の活動などをできるだけ小さな単位で行い、そこで行えないことをより大きな行政単位が補う「補完性の原理」と、最も住民に身近な自治体が優先的に執行する「近接性の原理」を重視して、地域の自主性と自律性を最大限発揮できる社会を構築します。
東京一極集中が地方の疲弊を招いている一方で、都市居住者の多くは密集による感染リスク、長い通勤時間にストレスを感じ、生産性を低下させています。これらの問題を解消するため、「職住近接」(職場と住居が近接)、「商住近接」(商業施設等が住居と近接)、「医住近接」(医療機関等と住居が近接)の「3つの近接」を基本とするコンパクトシティの形成を、地域の自主性を尊重しつつ進めます。
自治体の自主性を尊重した人口密度を考慮した土地利用計画(コンパクトな都市づくり)を可能にして、住民の利便性確保と中心市街地の活性化を両立させ、地域全体の資産価値の下落を防止します。
東京からの本社機能の移転、工場などの誘致に加えて、農林水産業、中小企業・創業支援、観光、スポーツ等の施策により、地域に眠る資源を積極的に生かすことで、地域産業の活性化を図り、安定した雇用を地域で創出します。
(出典:立憲民主党 政策集)
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日本維新の会では、「まず二極型国家を実現し、将来的には多極分散型国家の実現」をすすめるそうだ。主張してきた「地方分権」と連動する感じである。
(2)首都圏
「東京圏」と呼ばれる一都三県五政令市にまたがる通勤・通学圏を一体運営する組織体を形成。 広域自治体は経済圏に合わせた広域行政や都市戦略などに役割を特化してスリム化し、基礎自治体に徹底的に権限を移譲する、ロンドンをモデルとした「グレーター東京構想」を実現します。(3)副首都
首都・副首都法を制定し、大阪を副首都化することで、グローバルな都市間競争で日本をけん引するエンジンを増やし、まず二極型国家を実現し、将来的には多極分散型国家の実現を目指します 。
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国民民主党は「東京一極集中・都市集中の是正にも取り組みます」と明確にしている。
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共産党は2021総選挙政策には明記されていないものの、分野別政策として「地方の活性化、東京一極集中の是正、安全安心の機能こそ強化を」として明記されている。
新型コロナ感染症の拡大は、東京一極集中のリスクと是正の必要性を再認識させました。首都圏空港の機能強化そのものを見直す必要があります。
首都圏空港にヒト・モノ・カネが集中すれば、東京一極集中を加速することは目に見えています。国際金融都市構想など外資系金融会社等の誘致など都市再生・再開発事業が目白押しで、超高層オフィスビルも都心のいたるところで建設されています。首都圏空港を国際線と国内線との中継拠点とする「際内航空ネットワーク」を強化すれば、地方の活性化や一極集中の是正にも役立つどころか、地方から東京へ流出するストロー現象も加速されるだけです。
(出典:共産党 分野別政策)
各党、東京一極集中の是正についてそれなりに明確にしている。
問題解決の難易度がなぜ高いか?
手法は様々でアプローチも様々だが、これだけ各党が一致する政策も珍しい。期待できると多くの人は思うだろう。
しかし、筆者は東京一極集中の是正ができるという確信はほぼ持てない。第一に、これまでうまくいかなかった政策をどのようにしてうまくできるのか。その知見や考え方を示されているとは思えないからだ。第二に、問題解決がものすごく難しいから。
難しい理由は利害関係者が多いからだ。都市圏の政治家・自治体、地主、不動産業、本社や工場を東京におく企業関係者、本社や設備を東京に置いた会社の幹部や家族、中央官僚・・・・そして東京都民の多く。
常に誰かが反対するのだ。そのため、政治的に相当のリーダーシップが必要なのだ。現在の日本の政治状況ではなかなか進まないと思えてしまう。
まずは過去を振り返ろう。安倍政権下で政府関係機関の地方移転を進め、それなりに取り組んだ。まとめると以下のようになる。
とはいえ移転検討対象の7省庁のうち、特許庁、中小企業庁、観光庁、気象庁の4庁は、移転を見送り、既設の出先機関の強化で対応することになるなど、当初この政策に絡んだものとしては、期待をはるかに下回っている。
筆者は、内閣府地方創生人材制度のもとで働いていた時に、この政策にかかわり、うまくいかなかったのだ。調べれば調べるほど、官僚と話せば話すほど不満がでてきた。確かにマイホームを買った人には困る政策かもしれない。しかし、これは個人の事情よりも日本全体の話なのに・・・と何度思ったことだろうか。
問題解決は様々
問題解決のための具体的な政策は様々な人が様々な提言をしているし、その困難度についても言及しておこう。
地方分権以外の方策を考えるのなら、中央省庁を分散化させること、つまり分野ごとに中心をつくるべきだと考える。さすがに省まるごとをいきなり移すのは難しいのなら、一部部局の移転を促進してほしい。私は以下の案を提案してきた。
【部局移転案】
- 農林水産省の部局を一部、札幌市に
- スポーツ庁の部局を一部、旭川市に
- 文科省の部局を一部、秋田市に
- 農林水産省の部局を一部、仙台市に
- 環境省の部局を一部、いわき市に
- 文科省の部局を一部、つくば市に
- 消防庁の部局を一部、宇都宮市に
- 資源エネルギー庁の部局を一部、新潟市に
- 厚生労働省の部局を一部、福井市に
- 林野庁の部局を一部、長野市に
- 総務省の部局を一部、裾野市に
- 経済産業省の部局を一部、浜松市に
- 経済産業省の部局を一部、名古屋市に
- 観光庁の部局を一部、高山市に
- 気象庁の部局を一部、津市に*
- 観光庁の部局を一部、京都市に
- 文化庁の部局を一部、京都市に*
- 厚生労働省の部局を一部、大阪市に
- 総務省の部局を一部、大阪市に
- 特許庁の部局を一部、東大阪市に
- スポーツ庁の部局を一部、吹田市に
- 外務省の部局を一部、堺市に
- 法務省の部局を一部、奈良市に
- 環境省の部局を一部、和歌山市に
- 厚生労働省の部局を一部、神戸市に
- 金融庁の部局を一部、神戸市に
- 消費者庁の部局を一部、徳島市に*
- デジタル庁の部局を一部、高松市に
- 水産庁の部局を一部、高知市に
- 外務省の部局を一部、広島市に
- 防衛省の部局を一部、松江市に
- 外務省の部局を一部、福岡市に
- 金融庁の部局を一部、福岡市に
- 防衛省の部局を一部、那覇市に
- 海上保安庁の部局を一部、石垣市に
具体的にどの部局をまでは言わないが、地域の特性や政策が目指すものからして、これくらいは分散できる。「かいよりはじめよ」ということで、行政機関から移転を進めるのが第一歩であろう。
令和の日本社会をデザインしてください
- 一元的 ⇔ 多元的
- 集中 ⇔ 分散
- 中央集権 ⇔ 分権
- 統合 ⇔ 分割
上記が令和の時代のスタートを襲った新型コロナウィルスでようやく変わらざるをえない日本社会の問題意識についての論点である。日本社会はほぼ上記の左側の統治機構とその発想で戦後、いや野口悠紀雄さんに言わせると「(19)40年体制」でやってきた。前提はコロナで変わっているし、令和の時代・デジタル化の流れのなかで変わってきている。10年後の当たり前の未来を見据え、令和の新しい社会のグランドデザインを勇気を持って進めてほしい。
失われた30年が過ぎても、右肩上がり時代の社会システムの発想がまだまだ延命していて、さらに行き詰まりを見せている。経済でさえ未来が見えない。今ほど「日本社会のあり方」が問われている時はないだろう。
あとは実行するだけの状態・段階なのだ。各党にその実行プランの披露、そして政権を取った党に確実な実行を期待したい。