協力金バブルの暴走と後始末の行方(後編) --- 前田 米

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拙稿の前編を投稿した直後に時短営業要請の一旦終了が決まり、巷では協力金バブルの終焉、飲食店バブル崩壊だと揶揄されたり、TVを席巻した似非コロナ専門家達も出番が急減したかと思えば、総選挙突入もあって世の中の雰囲気は一変したように思える。

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協力金バブルは暴走中と記した私もちょっと気持ちがメゲそうになったが、迂闊なバブル店主の「このままコロナ禍が続いてくれれば大金持ちになれる」という夢は破れ去ったのか、はたまた第6波を待望しながらの一休みで異常は続くよどこまでも、なのか。一方すでに閉店告知して逃げ切る小規模店も出始めており、その割り切りの早さには息を呑むばかりである。

私が最初に協力金バブルの衝撃を受けたのは、本年1月に新年挨拶で寄った行き付けバーのマスターの言葉「ベイちゃん協力金の話聞いた? とんでもないお年玉、うち1ヶ月で1年分の利益が貰えちゃうよ」だった。

そこはマスターが昼の仕事を終えてから地元の常連相手に道楽でやっている5席だけのカウンターバーで、利益が月平均15万円ぐらいなら確かに186万円貰えたら1年分だ。その後この店は闇営業タイムには立ち飲み客も出るほど繁盛し、マスターは店の売上も激増で頗る上機嫌、いつしか昼の仕事は辞めて夏は念願の長旅を満喫していた。

そのマスターの見解では、今後は今年のような常軌を逸した協力金バブルは起こらないのではないか。確かにそうかも知れない。いくら傍若無人に失態を演じ続ける行政でもこれほどのモラルハザードを煽動してしまっては、それなりの反省や見直しを行なうはずだ。第6波が来ずとも次なるパンデミックや非常事態への対策を講じ、今回のコロナ禍であからさまになった余りに支離滅裂な各種補償や税金ばら撒きという行政の大欠陥の総括と、早急にそのルール作りや法整備を行わなければならない。

でなければここまで異様なモラルハザードが続けば、我々の平々凡々な格差社会は跡形もなくズタズタに分断されてしまうだろう。何故かどの政党も政権公約には入れてないが。

協力金バブルの暴走を煽ったのは、地方行政機関の徹底的な怠慢・不作為である

とにかく営業時間の捏造や闇営業等の不正を通報しても行政・都道府県庁が殆ど用をなさない。これは虚偽申請が多過ぎて行政も手が回らない、ということでは断じてない。なぜなら全てを摘発する必要などなく、犯罪行為を抑止するには常套手段として見せしめに摘発・検挙し、その事実や店名・氏名を公表するしかないのだ。

確かに不正受給が氷山の一滴ぐらいは報道されており返金させられたケースもあるが、当初から抑止効果が出るまで摘発を怠ってはいけなかったのである。

しかも実態はそれどころではない。例えば私の友人が働く東京都某区の居酒屋は勇猛果敢に闇営業を続け、なんと4回も地元行政の職員や警官がやって来たのだが、その都度三文役者の台本棒読みのように注意して退散するだけで、店の協力金受給には全く何の影響もないのだ。おそらく通報が重なれば無視するわけにもいかず一応注意したという体裁だけだが、これは決して珍しいケースではなく東京都以外の各地でも頻発している。

同じ台詞の反復で申し訳ないが、要するに時短営業に対する協力金など最初からデタラメ極まりなく、ただ行政が税金を不当にばら撒いただけである。

但し地方や市町村によっては行政の動きに違いがある。不正に対して担当職員で手に負えない場合は警察のお出ましだが、例えば数千軒の虚偽申請が発覚している某観光立県では、摘発に乗り出しても店主が非対応で連絡も取れないため警察が本格的に動き出していたり、また大阪府では吉村知事が悪質な不正受給に対する怒りの会見を開き、警察に対処を要請した。

しかしここ横浜では警察は全く無頓着なようで、深夜まで窓を開けて大騒ぎの闇営業店が交番の真ん前だったりする。

行政による節操なき不作為は不正受給に対してだけではなく、今回のコロナ禍に関わる対策全般に見え隠れする。

例えば神奈川県で飲食店の店頭に掲示されてきた「感染防止対策取組書(その店の感染症対策の取り組み項目の明示)」や「感染防止対策に係るステッカー(感染症防止対策宣言! )」はなんと、その店の感染防止対策の実態とは必ずしも関係がなく、忠実に取り組んでいる店もあれば、明示項目の幾つかは該当している場合もあるが、要するに店側が勝手に貼っているだけなのである。

だから感染防止対策優良店だと思って入店すると、カウンターの端に消毒スプレーが一応あるだけで感染対策は一切行なっておらず、店主がマスクもせず酔っ払って大声で唾飛ばして喋り倒しながら闇営業に引き摺り込まれる超危険店だったりする。

これでは感染拡大防止どころか逆に行政が市民を危険な店に誘導して、感染拡大を推し進めているだけではないか。

当然この実態に気付いた市民は行政に問い合わせるが、言わずと知れた役人の対応は「そのような場合は県に連絡をいただくことになっており(神奈川県政策局)」である。おまけにだ、県HPには感染防止対策事業者一覧と称する検索可能な名簿があり、事業者名・所在地・その店が実施している感染対策の詳細項目を公開しているのだが(笑い事ではない)勿論先ほど登場した超危険店も感染対策の全てを実施している超優良店として登録されているのだ。

これは一体全体何のキャンペーンなのか? こんなデータベースを開発運用してる暇と税金があるなら不正受給の協力金を一軒でも多く回収して欲しいと思うのは私だけだろうか。

マスコミによる実態の無視と偏向報道には絶望的にうんざり

行政と二人三脚で協力金バブルの暴走を煽ったのは勿論マスコミである。

協力金バブルが世間一般に周知され難い一因は、ワンオペ店の利用経験がないなど小規模飲食店の世界とは縁がなかったり、そもそも殆ど外食しないとか、そういった人達も結構いることにある。しかし行政による協力金バブルの暴走を食い止めるには、その実態を生々しく報道して民意を動かすしかなかったのではないか。第4の権力改め実は第1の権力と目されるマスコミにとってそれは容易いことだったはずだ。

しかし協力金バブルは殆ど報道されず、たまに一部メディアで取り上げられても、それはどこにも連鎖せぬまま消え失せていった。とにかく一部の飲食店の窮状と協力金支給の遅れだけを連日大々的にアピールし、協力金で助かってる店の方が多い事実やバブル問題に関しては無視を決め込んだ。窮状とバブルは背中合わせの同じ問題であり、当初から道理にかなった協力金を支給していれば窮状もバブルも発生しなかったし、協力金支給の遅れは申請の多さに対する人手不足だけではなく虚偽申請の多さにも原因がある。

これは実態を無視した明らかな偏向報道である。それが証拠にネットにおける時短営業等の記事へのコメントには協力金バブルに対する不満や怒りが渦巻いていたし、報道各局にも同様の意見が多数寄せられていたはずだ。

だから協力金バブルを認識している者は今年ずっとマスコミの偏向報道にはうんざりし続けていたし、ワイドショーに毎度繰り返し登場する居酒屋店主のぼやきに辟易して、TV画面に生卵でもぶつけたい気分になったかも知れない。なのに今日までマスコミが報道姿勢を改めなかったのは何故か。単純過ぎて申し訳ない気もするが、私の答えは次の通りだ。

我が国の報道機関は、全国民だろうが不特定多数だろうが一部の個人や組織に対してだろうが、補償や支援と称して税金をばら撒くことには極めて寛容もしくは歓迎あるのみである。

よって今回の総選挙もマスコミ主導で分配合戦の様相を呈しており、本来論じられるべき主要テーマは悉く埋没してしまっている。勿論これが由々しき事態であることは選挙民の多くが察知しているが、経済復興の見込みがない限り、今後もマスコミの攻勢は続くだろう。

挙げ句の果てには不当だろうが違法だろうが分配至上主義が暴走し、人々の不満や嫉妬や憎しみを増長させながら異次元の分断社会に突入してしまうのではないか。

何れにせよ補償や助成でもなく「感謝の意」と称する飲食店への協力金は常軌を逸したばら撒きであり、不正受給という前代未聞の大量犯罪が発生した事実は決して看過できない。

税金対策もしくは逃亡、そして後始末の行方

すでに今春頃から協力金バブル店主の関心事は当然税金対策であり、不正受給でなければ全く合法的な雑収入なので、後は世間一般的な節税対策のみとなる。店のリニューアル、備品の買い替え(と思いきや使わず転売してる店主もいるんだが)、旅行やグルメ、慌てて共済に加入、あるいは今年急増した車の買い替え需要はコロナ禍の金余りだけじゃなく協力金バブルも一因だ。

例えば私の友人夫妻は法人で小規模飲み屋を2軒やっており、御多分に洩れず協力金独り占めのため早々にバイトは解雇して店はずっと休業中。当初は繰越欠損金で相殺できると高を括っていたが、協力金だけで2,500万円超の利益になると流石に税金対策に奔走しだした。

早くバイトを戻して店を再開したらと言いたくなるが、このように協力金バブル店主は想定外に膨らんだ収入による深刻な税金対策に見舞われており、その奮闘もそろそろ最終コーナーに差し掛かる時期だ。そう言えば納税もしてなかった不届き者は協力金のために税務署に口座情報を掴まれて困惑しているに違いない。皆んな余計な対策は控えてそのまま納税してくれれば一番助かるのだが。

協力金目当ての新店舗が営業せぬまま閉店したり、もぬけの殻と化した幽霊店舗、突然現れては突然消えたイートインスペース、協力金製造マシーンと呼ばれた簡易店舗はどことやら、一般住居の仮装かき氷屋は秋になったから当然店仕舞いですわぁ、なんて頭に来るが、不正受給でない限り支給済み協力金の例外的な回収は不可能である。できることは不正受給の摘発による回収ぐらいだろうが、今さら行政機関が本気で乗り出すことはあるのだろうか。

詐欺行為とはいえ例えば1千万円を超える金額の返金は只事ではない。意地でも返さない者もいれば、すでに散財済みなら返そうにも返せないわけだし、前述した通り非対応で連絡が取れない行方不明者も出現しており、数千万円となると最悪そのまま逃亡する者もいるだろう。

しかも皆が口をつぐんでいるが、協力金バブルには言わずと知れた最悪の闇がある。それは我々の税金が協力金と称して堂々と反社会的勢力に流れ込んだことである。

おそらくの結論を言ってしまうと、協力金バブルの暴走により発生した不正受給という大量犯罪は、その殆どが摘発されずに終わるだろう。

何故なら国も地方行政機関もマスコミも、税金の不当なばら撒きなどは重要視しておらず、それが数千億や数兆円規模であろうが、明らかな詐欺行為が満載であろうが一向に構わないだろうし、まあ普通に考えてばら撒いた張本人やそれを煽った者が回収に乗り出すことはない。

そうか良かった、私の友人知人から何十人も逮捕者が出ることは無さそうだ、めでたしめでたし。

最後に、ワンオペ飲み屋をやってる私の親しい友人は見かけによらず機転が利くせいか、年明け早々から店は放置して他の仕事をしながら夫婦でグルメ三昧に興じていた。彼は以前から国内片隅の田舎で地産地消レストランをやりたいと言っていたが、今回あっという間に念願通りの場所で空き店舗を契約し、夫婦で田舎に引っ越すことになったのだ。旧店舗はしばらく様子を見て、再び協力金が入る見込みがなくなれば解約するだろう。

協力金バブルが人の人生を変え、人の夢を叶えたケースもあるという話だ。何のことだがよく分からぬが、まあそれも協力金バブルの一端である。

前田 米
ソフトウェア企画開発会社、代表取締役。映像制作、マルチメディアプロデューサー、ゲームソフト企画開発等を経て現職。