やはり強い自民世襲党
衆院選で自民党が大幅に議席を減らすとの予想が多かったのに、結果は狂いました。「自民、過半数割れも」のはずが「絶対安定多数を確保」です。新聞、テレビの選挙予想は惨敗です。
昨晩、テレビの選挙速報を見ていると、早々に最終議席予想を流したのは、池上彰氏が陣取るテレビ東京でした。ずばり「自民240、公明30、立民111・・」と、打って出ました。思い切りの良さが裏目にでました。
逆にNHKは「自民212~253、公明27~35、立民99~141・・。ぎりぎりで自民単独過半数」と、これなら狂いようがないとの思いをこめました。結果は自民は261ですから、大外れです。
他局はどうかというと、日本テレビが「自民、過半数確保も」、フジが「過半数、微妙」と、慎重な出だしでした。どこかの時点でフジは「230」、テレビ朝日「243」と。つまり自民の大幅減で横一線です。
最終結果は「自民261」で、「自民、過半数微妙」どころか、自民単独で安定多数の「244」を超え、無所属当選議員を追加公認すると、さらに絶対安定多数の「261」に到達しました。
NHK予想の上限「253」を超えました。テレビ局は全敗です。これほどの完敗はそうあることではありません。
狂いがちの事前予想はともかく、開票が始まり、出口調査の結果を踏まえた当日夜の予想なのに狂った。テレビ各社は事後検証して、「誤報同然」の数字を垂れ流したことを釈明すべきでしょう。
朝日新聞の社説は「自民は公示前の議席を減らし、金銭授受を引きずる甘利幹事長が小選挙区で落選した。首相や与党は重く受け止めるべきである」と。厳しい予測が多かった中で絶対安定多数を確保したのですから、私の実感は「自民党、予想外の圧勝」です。
「重く受け取るべき」は、新聞社側もそうです。選挙予想の大外れを「重く受け取る」ことです。
新聞の事前予想は、幅が広すぎて、参考になりませんでした。最もひどかったのは産経で「自民218~246、立民126~151、共産16~19」です。自民は過少、立民(最終結果は96)と共産(同10)は過大な予想です。明らかに「自民は惨敗、野党共闘は躍進」という危機感を募らせたかった。
読売は「自民、過半数微妙」でしたから、やはり「自民が絶対安定多数に到達」について、事後検証を掲載すべきです。
今回は、全国289の小選挙区のうち、野党共闘で候補を一本化したのは213でした。「4割で野党と接戦」(日経)という情勢分析でしたから、予想が難しかったのでしょう。接戦ならば、比例選の当落を決める惜敗率がなかなか定まらなかった。
主要紙の朝刊最終版の見出しは、読売が「自民、単独過半数。立民惨敗、維新躍進」で、「単独で絶対多数」に全く触れることができなかった。朝日は「自民伸びず、過半数は維持、岸田首相続投。立民後退」で、この「伸びず」は結果として間違いになりました。
自民が予想外の強さをみせたのは、「新型コロナの感染拡大の勢いが止まった」、「立民と共産の共闘が機能せず、立憲共産党と揶揄された」ためですか。近隣に中国や北朝鮮を控え、共産党アレルギーは強かった。
それに加え、自民党に際立つ世襲議員の強さでしょう。地盤(先代からの後援会組織)、看板(先代からの知名度)、カバン(政治資金を受け継ぐ資金力)が、政治人材の新規参入の障壁になっています。
新人候補の当選率は「世襲では6割、非世襲では1割」(日経によるデータ分析)と、大差があります。候補者全体では、比例復活を含めた当選率は「世襲では8割、非世襲では3割」と、これも大差です。
世襲の新人は当選しやすく、いったん世襲議員になると、落選しにくく、当選回数を増やせる。当選回数が増えると、閣僚や党の要職にありつける。
今回の選挙でも、塩崎元官房長官(愛媛3区)の長男、山口元選挙対策委員長(埼玉10区)の次男、川崎元厚労相(三重2区)の長男が新人で当選しました。選挙事務所、秘書、政治資金をそっくり引き継いだのでしょう。
「政治は風」と、よく言われます。その風も、世襲という壁に阻まれると弱まる。政治ジャーナリズムは、舞台裏の情報、動きを軸にした政界新聞から卒業し、データ分析を取り入れた記事を書いていくべきです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。