COP26の会場の外で行われたデモのあと、環境原理主義のアイドル、グレタ・トゥーンベリはこう宣言した。
これはもはや気候会議ではない。北半球の先進国によるグリーンウォッシュの祭典だ。指導者は何もしていない。彼らは自分の利益のために抜け穴を作っている。拘束力のない約束はこれ以上必要ない。COP26が失敗であることは秘密ではない。
その通りである。水素やアンモニアを燃やすゼロエミッション火力などというのはまやかしだ。それは化石燃料を先進国で燃やす代わりに海外で燃やし、CO2排出源を付け替えて企業をグリーンに見せる「グリーンウォッシュ」にすぎない。CCSなどで炭素会計上「ニュートラル」にするのは膨大な浪費である。
気候変動は開発援助の問題
グレタのいう気候正義は「気候変動の被害者は途上国だから先進国が支援すべきだ」という話だ。地球温暖化の最大の被害者は、熱帯の途上国である。次の図のように先進国の被害(GDP損失)は100年間の累積で10%以下であり、温暖化防止コストよりはるかに小さい。
熱帯の被害を防ぐには(グレタなどが主張しているように)先進国が石炭火力をやめるのではなく、途上国のインフラ整備を支援すべきだ。世界では11億人が電力なしで暮らし、30億人が薪や木炭を暖房に使っているので、化石燃料で電力を供給することが彼らの命を救う。これは開発援助の問題なのだ。
中国もインドも、G20では「2050年ネットゼロ」にコミットしなかった。その代わり彼らが要求したのは毎年1.3兆ドルの資金援助である。中国がCO2排出を1割減らしただけで、日本の排出量を上回る。日本の使命は、これ以上無理に国内の排出量を減らすことではなく、高効率火力発電プラントをアジアに輸出することだ。
環境左派が「グリーンウォッシュの祭典」を破壊する
2019年にはCOP25で演説したグレタが、今年は会場の外のデモで「COP26は失敗だ」と演説したのは象徴的である。もう国連には、極左化した環境原理主義が手に負えなくなったのだろう。
気候変動は金融資本に利用され、カーボン・オフセットとか炭素会計などの会計操作で温室効果ガスをごまかす技術が発達した。その規模はIEAによれば毎年4兆ドル。おいしいビジネスだが、そこには盲点がある。
たとえば次の図をみると、日本の火力発電所で化石燃料を燃やす代わりに東シベリアで燃やしてアンモニアをつくり、それを日本に運んで燃やすだけだから、地球全体のCO2排出量は変わらないのだ(EORで地中に埋めるのも日本でCCSで埋めるのと同じ)。
アンモニアの収益は大幅な赤字だが、唯一のメリットはCO2排出を海外に付け替えて「グリーンな企業」というイメージを演出することだ。しかし日本でも環境左派が「グリーンウォッシュだ」と騒ぎ始めると、わざわざ海外でアンモニアをつくって輸入するメリットはなくなる。
こうして環境NGOはグリーンウォッシュの祭典をぶち壊し、「カーボンゼロ」やESG投資でもうかるという日経新聞の幻想を破壊する。グレタの「すべての石炭への投資をやめろ」という主張はナンセンスだが、気候変動のコストは国民が負担するしかないという事実を明らかにする点では意味がある。
本気で脱炭素化するなら、炭素税のようなコスト負担が必要だ。それを会計操作でごまかしても、最終的な温室効果ガス削減コストからは逃げられない。COPに集まった各国首脳がそういう現実を踏まえて現実的な政策を議論するには、環境左派の告発も悪くない。