公明党「未来応援給付」は格差拡大政策か? --- 岡本 亘

衆院選が終わり、与党が政策協議へと入る中、公明党が18歳までの子どもに一律10万円を給付する政策(「未来応援給付」)を提言に盛り込むことが判明した。これは同党が衆院選で掲げた公約であるが、この件が報じられるとSNSを中心に大きな批判が集まった。

さらに、大阪府の吉村知事が「所得制限なしに18歳以下だから全員に配るというのは、何を目的としているのか分からない。(子ども3人の)僕だって30万円もらえる」と発言する等、政界からも反対意見が寄せられている。こ

れに対し、山口那津男代表は8日、関西テレビのニュース番組に出演し、「大人の都合で子どもたちを分断すべきでない」と反論し、所得制限を求める声を一蹴したため、議論がさらにヒートアップしている。

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本稿では所得分配という一つの側面に注目して、「未来応援給付」という政策の是非を定量的に検討する。分析にあたって厚生労働省「国民生活基礎調査」(令和元年)総務省「就業構造基本調査」(平成29年)の調査結果を参照する。

まず、下図に世帯所得別の子供の人数の分布を示す。こちらは就業構造基本調査を元に、プレジデントオンライン「富裕層世帯の妻が「多産」を嫌がる理由」(金森重樹)を参考にして、筆者が作成したものである。これを見ると、世帯所得が高い世帯ほど子供の人数も平均して多くなることがわかる。「未来応援給付」は18歳以下の子ども1人につき10万円を給付する政策であるため、当然子供の多い世帯ほど給付される金額も多くなる。これら2点を踏まえると、この政策は「世帯所得の高い世帯ほど給付される金額が多くなる」という逆進性をはらんでいると言えるだろう。

 

次に、国民生活基礎調査の「全世帯」と「児童(18歳未満の未婚の者)のいる世帯」の年間所得の相対度数分布を可視化して、子供がいる世帯とそれ以外の世帯で年間所得の比較を行なった。子供がいない世帯の分布については、「児童のいる世帯」が「全世帯」の21.7%であるとする同調査の結果を利用して推計した。下図では子供がいる世帯の方が、そうでない世帯に比べて年間所得が高いという傾向が顕著に現れている。ちなみに、年間所得の平均を算出すると、全世帯では約550万円、子供がいる世帯では約750万円、子供がいない世帯では約500万円となり、子供がいる世帯の方がいない世帯に比べて(平均的に)約1.5倍年間所得が高いことがわかった。子供のいる世帯だけに給付金を配る政策は、当然逆進性を持つのである。

 

さらに、上述した2つの逆進性(子供がいる世帯間での所得格差+子供がいる世帯・いない世帯間での所得格差に依るもの)を考慮して、世帯所得別に給付される金額の期待値を算出した。考え方はシンプルで、両調査の結果を組み合わせて、世帯の所得別に子供が0人・1人・2人・3人の4グループの比率を求め、それぞれの給付金額を0円・10万円・20万円・30万円として上記の比率で加重平均を取った。(※就業構造基本調査と国民生活基礎調査の所得の定義は厳密には異なるため単純比較はできないが、今回は簡単のため両者を同一視している。また、子供の人数が4人以上の世帯についてはそもそも割合が少なく無視できるとして、3人の世帯に含めて計算している。)下図に計算結果を示したが、特に低所得世帯への期待給付額が著しく低く、逆進性が非常に高い政策と言える。

 

「新しい資本主義」を掲げ、成長と分配の両輪を重視する岸田政権において、所得分配に逆行する政策が採用されれば批判は免れないだろう。念の為補足すると、筆者は「子育て世帯の方が所得は高いのだから給付金を配るな」と主張しているわけではない。下図は就業構造基本調査より筆者が作成した、世帯類型別の所得分布を比較したものである。これを見るとひとり親世帯、特に母子世帯においては平均所得(※約240万円で子供がいない世帯の半分程度)が低く、貧困率も高いことがわかる。コロナ禍で打撃を受けたシングルマザーの方々のように、生活に困っている人々にはむしろ積極的な支援を展開すべきで、それが本来あるべき「分配」の姿ではないだろうか。本稿の主旨からは逸れるが、筆者は子供の有無に関係なく困窮世帯を積極的に支援し、高所得者層への給付分は乗数効果の高い消費喚起策に回すべきだと考えている。

 

最後に、本稿で触れなかったが重要な観点について2点補足しておく。まず今回の議論はコロナ禍以前の所得分布を前提にしている。コロナ禍において子育て世帯の方がそれ以外の世帯に比べてより大きな打撃を受けたという定量的なファクトが存在すれば、上述した逆進性も多少は正当化できるかもしれない。また、高々10万円程度の給付金なら所得の分布を大きく歪めることはないため、逆進性も許容されると考える人もいるだろう。(実際、給付前と給付後でジニ係数を仮想的に計算しても0.407と小数3桁まで一致し、政策が与えるインパクトは小さい。)

 

岡本 亘
東京大学大学院生(数理工学)