海外の感染状況より考える第5波感染者急減の理由と第6波予想(前編)

鈴村 泰

第5波では、なぜ急激に感染者が減少したのか未だに解明されていません。 海外の感染状況と日本のそれを比較して、この問題を考えてみたいと思います。

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急減の要因として考えられている説を列記してみます。

  1. 複合要因説
    危機感に伴う一般市民の感染対策強化、ワクチン接種率の上昇、夜間の人流抑制、気象要因などの複合的な要因によるとする説。
  2. ウイルス自壊説
    RNAウイルスは頻回に複製を繰り返すと、複製エラーが多発し、自壊が始まるとする説。
  3. 季節要因説
    世界的に同じ時期に波が発生しているため、波の発生と収束は季節要因により決まるとする説。
  4. 集団免疫説
    一時的に集団免疫に近似した状態となり、波が収束すると考える説。

今のところコンセンサスが得られた説はありません。 各説に、疑問点があります。 他の国の新規感染者のグラフを見ながら、それぞれの問題点を考えてみます。

まず、イギリスの新規感染者のグラフを見てみます。

左側がイギリスのグラフで、右側が日本のグラフです。 グラフは、 Worldometers より取得しています。 イギリスの場合、日本とは異なり、11月になっても何故か感染者が減少してきません。

日本のグラフと比較できるように、人口補正と縦軸の目盛りの補正をしてみます。

 

左側が、補正したイギリスのグラフです。 右側が、日本のグラフです。 補正したグラフを見ますと、イギリスの波は日本の波よりかなり大きいことが、分かります。 日本の第5波より、大きな波であるのに、急速な減少が見られません。 ウイルス自壊説では説明がつきません。 季節要因説でも説明がつきません。

東アジアとオセアニアでは、ウイルスRNAの複製エラーの修復を阻害する酵素の働きが活発であり、 そのためウイルスの自壊が生じやすいという仮説が 報道されました。そこで、韓国のデータも確認してみることにしました。

韓国の新規感染者のグラフを見てみます。

韓国の感染者も、日本とは異なり、11月になっても減少してきません。

韓国の新規感染者のグラフも、イギリスと同様に補正してみます。

 

左側が、補正した韓国のグラフです。 右側が、日本のグラフです。 補正グラフを見ますと、韓国の波は日本の第5波よりかなり小さいことが、わかります。 波が小さいと、ウイルスの自壊が生じにくくなるのかもしれません。 また、何か韓国固有の要因のため感染者が減少してこない可能性もあります。 そもそも、なぜ韓国の波は小さいのか、その理由もよくわかりません。

次に、東南アジアではありますが、シンガポールの新規感染者のグラフを見てみます。

 

シンガポールにおいても、11月になっても、感染者の減少が見られません。

シンガポールの新規感染者のグラフも、同様に補正してみます。

 

左側が、補正したシンガポールのグラフです。 右側が、日本のグラフです。 シンガポールの波は、日本の波より遙かに大きいことが、分かります。 日本の第5波より、巨大な波であるのに、急速な減少が見られません。 ウイルス自壊説にも、季節要因説にも矛盾しています。

次に、インドの新規感染者のグラフを見てみます。 同様に補正しています。

 

左側が、補正したインドのグラフです。 波が2つのみで、日本の第5波に相当する波が存在しません。 季節要因説では説明がつきません。

最後に、ロシアの新規感染者のグラフを見てみます。 同様に補正しています。

 

左側が、補正したロシアのグラフです。 波が下がりきらず、次の波が始まります。 これは、ワクチンの接種率が34%と低いためと考えられます。 接種率が低いわりに、波の高さが日本の第5波の高さと同等である点が不思議です。 波のピークの時期と周期が日本とは、異なります。 季節要因説では説明がつきません。

集団免疫説の疑問点についても考えてみます。 獲得免疫(ワクチン+ 自然感染免疫 )のみで説明しようとしますと、 無理があります。 何故ならば、デルタ株は感染力が非常に強いため、集団免疫に必要な接種率が、 60%~70%より、85%90% に上昇したためです。

日本の現在の接種率は、74.2%です。 第5波の感染者数(陽性者数)は、約93万人で、人口の約0.74%でした。 仮に本当の感染者は5倍存在したとしても、約3.7%です。 デルタ株に対する自然感染免疫の増加は、ごくわずかです。 また、自然感染免疫獲得者は、ワクチン接種者とオーバーラップしています。 したがって、85%~90%に到達したとは、とても考えられません。 そのため、私は 集団免疫には、自然免疫も関与しているという仮説 をたてました。 自然免疫がウイルスに特異的に作用する場合がある ことは、最近の研究で明らかになっています。 ただし、この説でもイギリスやシンガポールのグラフを説明することができません。

結論としては、どの説も決め手を欠くため、第5波感染者急減を1つの理論で説明するのは困難です。 各国固有の要因があり、解明の難易度を上げています。

後編ではブースター接種と第6波について考えてみます。

(後編につづく)