「ビットコインを最高値で売り、暴落後買う」は不可能

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

仮想通貨のプライスのサイクルには、よく知られる規則性がある。それは半減期の翌年に大きく暴騰して、年末に暴落するというものだ。2013年、2017年は律儀にこのアノマリーに従っている。2021年はどうなるのか?それは誰にもわからない。

▲グラフはTraiding Viewからキャプチャ

そして2021年も多くのトレーダーがこのアノマリーの実現に固唾を呑んで見守っていることが、SNSなどでの反応を見ていて感じられる。それは2021年の暴騰を牽引したアメリカ人も同じだ。

そして、「年末までの大盛りあがりで売り抜け、暴落後書い直せば大儲けできる」と安易に考える人が多くて驚かされる。なぜか?株などの通常の金融投資では「できる」と思う人はいなくても、冒頭のアノマリーを持つビットコインが仮想通貨市場を牽引しているために、素人でも対応できることに感じられてしまうのだろう。しかし、データを持って論理的に考えればそれは簡単なことではない。

Vertigo3d/iStock

※筆者はオンラインサロンや情報商材販売なども一切ないし、本稿は筆者の個人的感覚を述べるものに過ぎず、投資助言でもない。たとえこの内容を聞いても、あなたの投資判断に一切のバイアスがかからないでもらいたいと思っている。

最高値はRSIが教えてくれる?

2013年と2017年の年末の価格を見る人は、このアノマリーに乗っかって2021年に最高値で売り抜けようと考える。そうした人は「誰か最高値を予想してほしい」という「答え」だろう。だがそんな答えは誰にもわからない。ちなみに2017年には「今年は暴落しない。このまま1000万円までいく」という専門家すらいた(S2Fモデルと呼ばれる統計的な目安は存在するが今回は割愛する)

だが、RSI(買われすぎ、売られすぎを判断できる指標)が1つの可能性を導き出してくれるかもしれない。週足か月足のRSIが80を超えた辺りが頂点になる傾向があるからだ。下記のチャートは2017年と2021年のビットコインの週足チャートだが、いずれも80や90を超えたタイミングで、ロングの決済売りから大きく調整していることがわかるためだ。

▲画像はビットバンクからキャプチャ

▲画像はビットバンクからキャプチャ

テクニカルで見れば、2017年の12月の大暴落の理由としては、それまでほとんどロングの決済売りを挟まずに買われ続けてきたことで、それがツケとなって大きく調整したと見ることができるだろう。ファンダメンタルズ分析では、後付で「あの暴落はこの重鎮の発言が原因だった」とそれらしい理由が述べられることがあるが、真実はテクニカルこそが語る。2021年の5月の暴落理由も「イーロンマスク氏がネガティブな発言をしたために起こった」と考える人もいるが、それまで適切な調整を挟まず、ひたすら積み上げられる一方だったロングの決済売りをツケとなったと見ることもできると思っている。

だが、この週足・月足RSIを頼りに最高値判断をするのは、ほとんどの人にとっては現実的ではない。そもそも、RSIが絶対ではないし、仮想通貨は米国株や金利、ゴールドにさえも影響を受ける。また、上にも下にも大きく触れるオーバーシュートするタイミングというのは、統計的理屈を超えた動きになることも多い。

最高値で売り、暴落で拾い直すのは不可能に近い難易度

そしてここからが大きな問題なのだが、最高値付近に留まる期間はあまりにも短い。その一瞬を見逃さず、チャートに張り付く生活などほとんどの一般人には無理であるし、それが最高値であると判断することは誰にもできない。「高値で売り抜けてやろう」と欲張る人は、一瞬付けた高値を見ても「まだ伸びる」と思いながら、そして下落に巻き込まれてしまうのだ。

ここからはそれを論理的に証明したい。取引所ごとに価格差はあるが、Bitflyerが公開している終値のデータを使って説明する。多くの仮想通貨トレーダーが強烈に記憶に焼き付いている「2017年、ビットコインは200万円を突破した!」という価格は、実は12月15日から20日までの「たったの数日間」しか滞在していなかった。その前後の12月1日は119万円、12月31日は157万円と最高値からは相当に距離があったことは意外と認識されていない。

12月17日に付けた227万円という最高値から考えれば、その後の暴落局面における2019年11月22日で付けた76万円台は66.5%下落となったと計算できる。だが、もしも12月1日時点で「もう十分高値圏であり、暴落が怖い!」と全部利益確定してしまっていた場合は、最安値との価格差は36.1%下落に留まる。それなら、月初に買って月末に売った場合と大差はないのではないだろうか。さらに売買時は高い税金を支払うことになり、新たに拾い直すにも最安値を探ることになる。これは最高値を探るのと同じレベルの技術が求められる。さらにさらに、底値圏で拾う難しさも忘れてはならない。今では旺盛に仮想通貨の情報発信がなされているが、こうした低迷期は誰も仮想通貨のことなど話題にする者などいなくなる。YouTuberもSNSも発信者側がいくら良いことを言っていても、視聴率を取ることができなくなるからだ。まるで、二度と仮想通貨界隈は盛り上がることがないかのように、相場が静まり返る。現在、素人が拠り所にしている情報源はほぼなくなる。そんな誰もみむきもしないような状況で、熱を入れて分析を行い、旺盛に買い迎える素人がいるだろうか?

つまり、理論上可能だが事実上不可能に近いのである。「4年毎のアノマリーがあるビットコインは、株と比べて利益を出すのが簡単」と思う人が多いが、そのアノマリーの起こるちょっとした時期のズレが「最高値で売り、最安値で買い直す」という一見簡単そうに思えることを、事実上不可能な芸当に昇華させているのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。